白夜の海賊紳士 4幕の3~勲章と指環 58 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

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このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
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シスターフラウから剣を受け取り、舞台に戻るハイネ殿下。
「劇場で最も美しい女性を奪う」
との予告状の内容は、剣を預かったシスターフラウが額にキスされることでその栄誉を手にした。豪華に着飾った貴婦人の中には不満の声もあったが、王家のキスを受け取るには余りに怖れ多いとの見方が殆どで、相手が16の修道女は比較にならないとのことで落ち着いたようだった。
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カイザー丞相はジオン兄さんを良く研究していた。
片手で剣を振り、右手と左手を自由自在に持ち替え、時に蹴り技と混ぜる独特な『海賊剣法』だ。
これは揺れ動く船上での戦い、敵味方が密集する中で、身の軽さが最も要求されるからだ。
カイザー丞相は政治だけでなく、リーセ王国の軍事のトップだからそれは理解出来る。
だが驚きはハイネ殿下の方だ。

両手で剣をしっかり握り、上段からの振り降ろし、横薙ぎと基本に忠実な殺陣を披露した。

(殿下…何と雄々しい姿だ。
猛々しく剣を降る姿に、このリディア=ロンド言葉もありません。
私が傷心からの惰眠を貪る日々の間に、誰もが成長を遂げていたのですね。
恥ずかしい…。)

一進一退の攻防に観客は興奮した。
それもそうだ。
片やリーセ王国のカイザー丞相。
片やスールシャール王国のハイネ殿下。
国を代表する者同士が1vs1の剣技を披露すれば興味を惹かれないわけがない。だが…。

変化に気付いたのは私だけか?
殿下の息の切らし方がおかしい…。
これは日頃の鍛練が不足しているからという問題ではなく、明らかに剣の重みに苦労しているようだ…?

その時、私はメルベリ殿が私に伝えた言葉を思い出した。

「国民はギリシャに学び、王家はローマに習え」と。

古代ギリシャといえば民主政治を連想するのだろうが、私はふと「ジェミニの故事」を何故か思い出した。
双子の彼らの実力は完全に互角だった。
だから片方の戦士は予め自分の剣より重く細工した剣とすり替えることにより闘技場での試合に勝利したと。

しかし、これは舞台だ!あくまで演劇だ!
だが…殿下はシスターフラウに剣を預けてたぞ…?

丞相の芝居用の剣は真剣の重みに耐えられず遂に破砕した。

丞相の眉間を捉えた殿下の一撃に対し、私は客席から短剣を投げつけ、方向を逸らす!

「お止めください殿下!
民主化政策の為とはいえ、王族の貴方に人殺しは私がさせません!」

「邪魔するなリディア!これが王家の相応しい最期なのだ」続