「リーセ王国統括大臣、ジョン=カイザー。
ジオン=キャラガー外務大臣、姫を拉致誘拐した疑いで逮捕する!」
自らをジョン=カイザー丞相と名乗ったハイネ殿下。
目の前に居る「本物の」カイザー丞相とは似ても似つかぬ甲高い少年の声を披露する殿下。
沈黙していた観衆の一人から
「いいぞ王子ー!」
と声が飛んだ瞬間に、割れんばかりの拍手が起きる。
殿下の心意は読めないが、あくまで舞台の役者の一人なら…と、その気持ちを汲んだのはアンナだった。
「お願いですジョン!
私達は愛し合ってます!
南海の孤島でジオンと幸せになるって決めたのです!
ここを通してください!」
「ミネルバ王女、貴女は我がリーセ王国の女王陛下になられるお方だ。
一個人の感情よりも、国と民の為に尽くす一番の奉仕者でなくてはならない!」
大袈裟な身振り手振りに加え、頭を抱えながら苦悩の末に言葉を絞り出すようにセリフを言うハイネ殿下。
役者としての練習をどれほど積み重ねて来たのか?
丞相としてはミネルバ王女の気持ちを痛いほどわかってるのが観ている私にも伝わる。
「それはあんたがやりゃあいいじゃねぇか!
ミネルバが居なくなりゃあ、国はあんたのやりたい放題だろ!
たとえ王族に生まれたからって、ミネルバにだって幸せになる権利はある!」
「ジオン=キャラガー殿…。
私は大臣として『法』の守護者でなくてはならない…。
それでも愛を貫くというなら、私を倒すことだ!」
「面白れえ!
ミネルバ、下がってな、怪我するぜ!」
勢い良く剣を抜いたカイザー丞相演じるジオン兄さん。
ここからこの舞台最大の見せ場の1vs1の剣技が始まるのだが…。
舞台に乱入したハイネ殿下の腰は帯剣していない!
誰もが「どうするのか?」と思った時、ハイネ殿下は突然舞台を降りて客席に向かってきた。
しかも私の方向に…。
ま、まさか私に代わりに戦えと?
殿下の命令なら…。
と、心臓が信じられないくらい拍動する私をよそに、殿下は私の隣の隣の席に座るシスターフラウの前で膝を着いた。
「預かってくれてありがとう。
修道女の君が居てくれたのは主のお導きだよ。」
「い、いえ…ハイネ殿下の為なら私は…。」
「しっ、今の僕はジョン=カイザー丞相だからね。
ありがとう、最も美しい女性は最も信仰篤い女性のことだよ。」
と、赤面する修道女の額に軽くキスをする王子。
荷物の中から剣を取り出す。続