「カイザー丞相、大切な冬至祭を忘れるほどの重要な用事で我が国に…?」
「シュレストローム内務大臣。
私がこちらへ赴いた理由は貴方が一番ご存知のはずですが?」
「…ならばハイネ殿下の御前で貴公の意を述べればよかろう。
この席で俺がどうこう言うのは控えておこう。」
「それが賢明でしょうな。
取りあえずは私の今の役目はトール神を演じ切ることです。
どうかお静かに観覧を。
そして寄付には感謝しております。
このお金は両国の戦災孤児の為に有り難く使わせて頂きます。」
…古狸め…。『但し、両国のアスガルド教信者の子供に限る』が抜けているぞ…!
ジョン=カイザー丞相。
リーセ王国の軍事、外交、内政の三部門を一手に握る事実上の最高権力者。
齢50を迎える円熟の男性ながら、未だに独り身であるが故に国内外に多数の女性支持者を抱えているという。
噂好きのエマ情報によれば、カイザー丞相が独身である理由は様々な憶測が飛び交い、
1 同性愛者だとか
2 性的不能者だとか
3 結婚してしまえば娼婦と遊べなくなり、『夜の皇帝』には致命的だ
などの噂がある。
どれも眉唾物だが、情報戦略が鍵を握る近代戦争において、
4 それらの噂そのものがジョン=カイザーという人間の人気に結びついている。というのが騎士団長の私の見解だ。
そして彼の野望と貪欲さを包み隠さない態度はアスガルド教の教えと一致し、私達のヤハウェ教に相反する。
そう、カイザー丞相が国内外に熟年男性の大人の色気を振り撒くほど、戒律に厳しいヤハウェ教に疑問を抱く者は増えていく。
同性愛者や子供を授からない者、生活の為に身体を売るしかなかった女は、神を信じ切れずに、あるがままに人間らしいジョン=カイザーに惹かれていく…。
そして…ミネルバ王女に代わり国政を担うことに誰も疑問を抱かなくなる。
丞相自身が戒律の緩やかなアスガルド教の広告塔だ…。本人もそれをわかってるのが、この男を好きになれぬ理由だ…。
「おい、ラハブ!これは幸運だったな。金持ちの客はしっかり捕まえときな。」
「あいよ、わかってるわよ、ロイの旦那。しっかり接待するわ。」
「待て、ロイ!祭りの寄付はまだしも、娼婦の集団を『手土産』にするなどと、国政を担う者同士が…」
「ほう、最近の娼婦は騎士の仮装もしてくれるのかね?シュレストローム内務卿も若いのにツボを心得ておられる」
「私は売春婦じゃない!本物の騎士だ」