勲章と指環 13 | 最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

最後の哲学者~SPA-kの不毛なる挑戦

このブログは、私SPA-kが傾倒するギリシャ哲学によって、人生観と歴史観を独断で斬って行く哲学日誌です。
あなたの今日が価値ある一日でありますように

「私は売春婦じゃない!本物の騎士だ!」

何という屈辱…!ジョン=カイザー丞相…噂以上に品性の無い下世話な男だ!
メルベリ殿に剣を没収されてなければ叩き切っていた所だ。

「これは失礼致しました、美しいお嬢さん。
ですが仮装で男を悦ばすには、衣装だけでなく、その内面まで成りきることが重要ですよ。
そうすることで男と女はお互いに内側から熱くたぎる…」

「何の話をしている!
私は…。」

か、顔が熱い…。
よくもロイの隣でこんな恥ずかしい想いを…。

「何の話?『本物の騎士』についてですよ。
誠の騎士とは、己の自尊心よりも、主君と国家を全てにおいて優先すべきであり、さすれば戦うべきに戦い、生きるべき時に生き、死するべき時に死す。
違いますかな?」

「……。
丞相の仰せの通りです。
我が剣と命はスールシャール王国の為にのみあります。」

「わかってくださればいいのですよ。
非礼はお詫び致します。
ただ、貴女には先代のトレビル殿の様な威厳溢れる将軍になってほしいだけですよ。
非礼はお詫び致します、リディア=ロンド騎士団長殿。」

「き、貴様、最初から知っていながら、よくも私を売春婦などと…。」

「あの春の謁兵式。
貴女の凛とした佇まいを忘れるはずないじゃありませんか。」

「貴様、いい加減にしろ!
何処まで本気で言っている!?」

「リディア、カイザー丞相をまともに相手にすんな。
何処まで本気だと?
全部ウソに決まってんだろ?」

「流石はシュレストローム内務卿。
手厳しいお言葉で。
では、私は舞台がありますので…。」

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「おのれ、醜きトロルめ!
愛しきフレイアを花嫁に差し出せなどと不届き千万!
我が正義の鉄槌を喰らわせて…。」

「トール様、その槌が盗まれたから困っるでやんす。」

大袈裟な芝居でトール神を演じるカイザー丞相。
「トールの槌」でトール神を演じる男は村で最も男らしく屈強な男が選ばれる。そして逞しい男が女装して花嫁のフリをして槌を奪還するから面白い。
広い肩幅の男がドレスに石を入れて胸を膨らませ、野太い地声で精一杯の女言葉を使うから観衆は笑いの渦に包まれる。そう、青年兵のメルベリ殿のような男性がその典型だ。
それが例年の祭りのはずだった。

だが、観衆は水を打った様に沈黙していた。
それは花嫁に扮した49歳のカイザー丞相は、フレイア役の村娘以上に花嫁らしく、艶やかな演技を披露していたからだ。