「メルベリ殿、路銀を持て。
祭りに寄付をする代わりに、街道を直進させろと、主催者に交渉しろ。
何ならロイ=シュレストローム内務大臣の名を出して構わぬ。」
「待て、ロイ!お前が預かってるのは採掘現場の予算で…。」
「内務大臣は俺だ。
俺を気に入らないと思ってる連中には『ハイネ殿下立ち会いの下で査問委員会にかければいい』と繰り返し言っている。」
…そんなことはわかってる…。
内務大臣の仕事よりも考古学に明け暮れるロイを快く思わない連中が居ることを。
それでもロイは常に的確な予算配分を決済し、裁判は理路整然とした判決を出したかと思えば、訴えに温情溢れる判断を示すこともある…それがロイの魅力だということは私が一番良くわかっているつもりだ。
「違う、私が言ってるのは、公にアスガルド教に寄付をすることは…。」
「リディア、お前の母上が元修道女だからと言って、特定の肩入れは容認出来んな。
我がスールシャール王国はリトマネン教皇と懇意にしてはいるが、ヤハウェ教は国教ではない。」
「あぁ、そうだったな…。」
こうなってはロイはテコでも動かない。
どうせなら、アスガルド教の冬至祭である『トールの槌(ハンマー)』をロイの傍で観劇するのも悪くないか…。
今まで一度も、私をオーケストラに誘ってくれたこともないのだから…。
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「シュレストローム内務卿、主催者が感謝の挨拶を述べたいと申されています。」
交渉から戻ってきたメルベリ殿。
どうやら上手く行ったらしい。
この寒い夜道を馬車で迂回するのは確かに辛い。
金がものを言う世の理をロイは心得ているのだろう。
ほどなく、この祭りを取り仕切る責任者が現れたのだが…。
ロイもその相手も、お互いの顔を見合わせた!
それもそのはずだった。
私は謁兵式の来賓として着席してるのを見ただけだが、ロイは私よりも彼を知っている。
当然だ。その男はリーセ王国のジョン=カイザー大臣だったのだから!
「シュレストローム卿…!
こんな道中で出会うとは…。」
「カイザー大臣!我がスールシャール王国の領土内でアスガルド教の冬至祭とはどういうことでしょうか?」
「火急の用でハイネ殿下にお会いしたく、馬車を飛ばしてましたが、今日が冬至と言うことも忘れておりましてな。
そちらの国の信者との親睦も深める意味を含めて、急遽ここの『トールの槌』に飛び入りしました。あぁ、トール神役で女装するのは私ですよ」続