「殿下ー!殿下ー!大発見、大発見でございます!」
「まぁ、何ですか?ノックもなしに。」
慌てて謁見の間に飛び込んで来た家臣に対して、メイドのエマは優しく注意する。
スールシャール王国のハイネ王子はこんな事では怒らないのは承知しているが、お付きのメイドとして注意しないわけにはいかない。
「エマ、構わぬ。
北の発掘調査に成果があったようだな?」
「はい、殿下。これを…。」
頭を低くしたまま、大事そうに包みを開ける家臣。
そこには…。
「…ほう、何と美しき円鏡…。
裏面だけでなく、表まで反射する仕様は珍しい…。」
「はい、このような完全な形での出土は例がありません。」
「宝石職人に研磨の要請を。
考古学者には刻まれた古代文字の解読を。」
「はい、既に手配しております。」
「ご苦労…。
ロイの悔しがる顔が見ものだ…。
だから私は北の採掘場が有力だと言ったのだ。
なのにロイは南に拘り続け…。」
「シェルストレーム内務卿は、小円筒と円鏡には密接な関係があるとの説を信望しておりましたので…。
南の採掘場に拘り続けたのもその為でしょう…。」
「ロイはまだそんなおとぎ話を信じているのか?
小円筒は古代人の宝飾品に過ぎぬ。
円鏡は確かに一部は祭祀に使われたかもしれぬが、鳥避け対策だ。
ちゃんと古代人の書物にも残っているであろう?」
「しかし、ハイネ殿下…。
ならば何故、古代人はそこまでの技術の粋を集めて鳥避けを…?
奴隷に監視させれば良いではありませんか?
私達の国では、このような円鏡を作ることは出来ませぬ…。」
「それがわからぬから国中で研究をしているのであろう!
ただ…古代人は『空』に異常なまでの畏怖があったのは確かだな…。
世界中の王国に大破壊の伝承はあるが、リーセ王国の大臣等は遂に、『大破壊は古代人の行き過ぎた科学文明による世界戦争のことだ。』と邪説を唱え出す始末だ…。
それはない!
大破壊は『神の怒り』に間違いない。
私達の使命は古代人の何が神の逆鱗に触れたかを解き明かすことなのだよ。」
「はい、仰の通りであります…。」
****
遥か遥か未来の人間は
これを「円鏡(えんきょう)」と呼び、
これを「小円筒(しょうえんとう)」と呼び、一喜一憂してました。
終