教会内事務室
「はぁ~、こんなに落ち着いた気持ちでアフタヌーンティーが飲めるなんて、二年半ぶりですこと。」
「三好さんが入学してから1日も気が抜けなかったということですね。わかります…。」
「赤尾さんはやはり私が見込んだ通りの方でしたわ。誠実で情熱的な方。
臨時の伝道師ではなく、我が聖バーバラで教鞭を取ってもらいたいくらいですわ。」
「修道院長、私は騒ぎが大きくなっただけの様な気がします。
赤尾助祭は勘違いしてることすら気付いてませんし…。」
「後藤さん、本人が気付いてないのなら、それでいいではありませんか。
私も貴女に言われるまで、てっきり三好さんが赤尾さんに想いを寄せてると思ってましたから。」
「今更修道院長に伝えても、収拾はつかないと思いますし、どうせなら篠山五月さんが赤尾さんを想う気持ちを大切にしたいと思いまして…。」
「それを聞いて安心しました。
三好さんの指導だけでなく、赤尾さんが司祭に合格する為にも、それは良いきっかけとなりそうですこと。
なんせ、彼はその覚悟の無さが不合格の原因だと気付いてくれたらよろしいのですが…。」
「覚悟?まさか赤尾さんの迷いとは…。」
「ええ、カトリックの神父として、独身を貫けるかを彼は自問自答を繰り返しているのです。
小娘…いえ、生徒達のミニスカカフェとの言葉に心を奪われたのもその証拠です。
見事に文化祭までに三好さんを指導し、篠山さんの恋心と向き合い、彼が信仰を貫いた日には立派な司祭様が誕生されることでしょう。」
「それでも不合格でしたら?」
「この教区がクソ…いえ、ご縁がなかったのだと、静かな心で受け止められるでしょう。」
「赤尾さんに誤解を解かなくて良かったのでしょうか?」
「彼の情熱に水を指すこともないでしょう。
聖書にも書いてあるでしょう?
『あとは野となれ、山となれ』と。」
「絶対に書いてません!」
「ああ、これは『私の辞書』でしたわ。」
「けっこう適当ですね!?」
「先代からの伝統ですわ。」
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「聖母マリアはユダヤの王を授かったとありますが、マリアはダビデ王、ソロモン王の血族ではありません。
マリアの主人であり、イエス=キリストの父である大工のヨセフの血統なのです。
聖母マリアの神々しさは血統ではなく、イエスを産み育てたことなのです。」
(あぁ、三好さんと山際さんだけでなく、これだけの生徒が僕の話を聞きに集まって)