夜 佐田星明のアパート
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「ただいま~、ごめんね遅くなっちゃって~。
ご飯はいいよ、真利子さん達と食べてきたから。」
「お帰りなさいませ、奈々子。
…そうですか、一応馴染みの店で炒飯をテイクアウトしてたのですが、明日の私の昼御飯になりそうですね。
では、『はっさく』は如何ですか?
今日、店長から奈々子と私の分も頂きましたので。」
「え?本当?食べた~い。ファミレスのデザートって、がっつり甘いのばかりで飽きちゃうのよね~。」
「お待ちくださいませ。
今、包丁を入れます。」
星明との同棲生活。
同じバイト先に通い、同じ家に帰る。
私は幸せだった。
私はこの礼儀正しくて万能無敵なイケメン年下彼氏に何の文句もなく幸せだった(ドヤ顔させてよ、数少ない私の自慢なんだから)
「それで?如何でした?それ以上の進展は?」
「どうもこうもないわよ!
結局、大瀬良って妖精だか妖怪だかは、人間社会の都市伝説を真に受けて、女の遊びの軍資金稼ぎで安っぽい錬金術に手を出しただけみたいじゃない!
どうせ金やプラチナを不正に売りさばいたんだから、どっかで逮捕されるだろうし、お金で女が手に入るなんて男はどっかで痛い目みるし、そういう男に寄ってくる女も問題でしょ?」
「確かに…。
ですがそれは人間界での理由ですね…。」
「それがどうしたのよ星明?」
「奈々子、魔界の覇者・憤怒の魔王サタンとして言わせて頂きます。」
「だからどうしたのよ、星明?」
「これで大瀬良が詐欺や窃盗、もしくは女性とのトラブルで逮捕されても、それは彼が人間界で裁かれるだけです。
誤った錬金術で富を不正に得るように唆した悪魔は、違う獲物を見つけ、次の犠牲者を出すだけです。
魔界の管理者としてその様な悪質な契約をする悪魔を見過ごせません。」
「でもそれって『涙の宝石』とかって謎を私達で解かないといけないんでしょ?無理よ!」
「諦めないでください!」
「ファミレスで散々みんなで考えたのにわからないから帰ってきたんでしょ!」
「キュッ!」
興奮した私は手に持ってたはっさくを強く握りしめてしまい、汁が飛んで目に入ってしまった。
「痛~い」
「大丈夫ですか?」
「あ~涙出た。
でもはっさくは酸っぱいのに、涙はしょっぱいね。」
「ええ、人間の涙は塩分が含まれてますかね。」
「塩分?それだわ!ねぇ、北御門さんの甥子さんて高校の理系クラスよね?」続