「久美子の話だと、つい最近、車を軽から外車に替えたらしいわよ!
キーをクルクル回しながら誘ったんだって~!
どこのマニュアル本で研究したんだろうね~。」
「奈々子さん、確かにそのコテコテの誘い方も失笑ものですが、問題はそこじゃないですよ!
大瀬良先生の場合はインストラクターだけでなく、本業のダンサーとしての収入かもしれませんし、ほら、ファンとか後援会からの出資かも…。
それに手がベタベタしたって…。
『レビアたんもどき』の下級悪魔か水棲妖怪ならでは『ベタベタ』かもしれないですよ。」
「真利子さん、それって大瀬良らい夢先生が、『人間社会のデートの誘い方』がわからなかったから、漫画やドラマのテンプレを真似したってこと?」
「それもあるかと思います…。
私も昔は探偵会社で働く為に、『金田一』とか『探偵物語』を参考にしたら、上司や後輩に散々笑われました…。
かつて悪魔は聖書を参考にして人間社会に入り込みましたが、現代社会でテレビや漫画を参考にしてはいけないんですね。(文学の悪魔のあいつが人間達と仲良くやっていけるわけだわ!)」
「ねぇ、真利子さん。
元探偵の貴女を見込んでお願いがあるの!」
「わかってるわ!大瀬良らい夢先生の調査は任せて。」
「うん、お願い。
そろそろ教室でレッスンが始まるわ!」
窓越しにダンス教室を見物すれば、先に着替えを終えた生徒達が入ってくる。
小夜子ちゃんは一人の女の子としっかり手を繋いで入ってきた。
多分あの子が陽菜ちゃんだろう。
盗難に遭った不安を小夜子ちゃんが元気付けたのだろう。
男口調で職人気質の小夜子ちゃんは、(人間として)同年代の女の子には頼りがいがあり、人気があるのだろう。
この可愛い少女が小夜ちゃんと友達になったことを喜ぶよりも、何処かの誰かに合わず済んだことの方を喜んでる私って意地悪だな…いや、同じ少女の仲でもあいつの好みが判別出来るのもどうなの?
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「は~い、皆様ごきげんよう。
今日も楽しく踊ろうね~。」
軽快に教室に入ってきたのは大瀬良先生だ。
いつもは長いドレッドヘアを後ろで束ねているが、今日は束ねずに下ろしていた。
先生が顔を振る度に、左の頬にはくっきりと『もみじ』の痕が残っていた。
隠そうとしてるのに隠れてない現状は、見学してる保護者からも笑いが起きた。
「まぁ、らい夢先生たら、お痛が過ぎたのかしら?」
「あら、私ならウェルカムなのに」