「じゃあ、マリリン頑張ってくるよ。
取りあえずレッスン中はダンスに集中するさ…。」
「ええ、小夜ちゃんは気にせずレッスンを受けてて。
教室の周りとビルの内外は私達が注意してるから。
「あぁ、頼んだぞ。」
妖精ブラウニーの小夜子ちゃんは、このダンス教室で知り合った陽菜ちゃんと一緒に更衣室に向かった。
職人妖精として、便利屋稼業として、仕事ばかりの小夜子ちゃんは、趣味にお友達にボーイフレンドにと、充実した毎日を過ごしていた。
だからこそ、些細な盗難事件でも、彼女の日常を守る為に私は全力を尽くしたい…。
「ブーン。」
小夜子ちゃんと別れて間もなく、バッグの中のスマホが振動する。
私と行動を別にしてた奈々子さんからだ。
今日も奈々子さんは下の階のスポーツジムで汗を流してるはずだが、目的はインストラクターの久美子さんと連携して、怪しい会員情報を集めることだ。
このタイミングでかかってくるとは、収穫ありかな…?
「奈々子さん、どうでした?
怪しい会員の話聞けましたか?」
「どうもこうもないわよ、真利子さん!
もう笑っちゃったんだから。
久美子はまだ職場から離れられないから、取りあえず私がそっち行くね。
例の場所で話そ。」
「トレーニングはもういいんですか?
小夜ちゃんはこれからレッスンだからもう少し後でも…。」
「駄目よ、レッスン始まる前に耳に入れとかなきゃ意味ないから!」
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自販機コーナーのベンチに座り、ホットコーヒーを飲む私。
一汗流した奈々子さんはスポーツドリンクを飲んでいた。
運動してない私が砂糖入りのコーヒーを注文したことに自分のお腹と二の腕に罪悪感を憶えるが…今は奈々子さんの話に集中しよう。
奈々子さんは、サタン様と夜も一緒に汗を流してるから、ジムで運動しなくていいじゃない!
とか考えちゃ駄目だ。
未だにあいつと何もない自分が哀れになって、余計に砂糖多めのコーヒーが美味しいよ…。
「でね、聞いてよ真利子さん。何と久美子を口説きに来たのが、ダンス教室の先生の大瀬良らい夢先生だって!
しかも『夜景の見えるホテルのレストランを予約したんだ』だって~!どこの漫画のセリフよ~って久美子と爆笑してたのよ。」
「それで久美子さんは何て?」
「『鏡見直したら?チャラい坊やは嫌いなの!』って平手打ちしたそうよ!」
「凄い久美子さん!」
「問題はその後よ!ビンタした右手がベタベタしたそうよ」