「はい、これが最終報告書だよ、安藤くん。」
「ありがとうございます、所長…じゃなかった、中野さん…。
現役を退いた中野さんにこんな依頼を…。」
「全然簡単なミッションだったよ。
でも、自分で調査しようと思えなかったのは、やはり私情の絡みかい?」
還暦を迎えた紳士は何年過ぎても私の師匠であり、恩人だった。
あの女性からの電話がどうしてもイタズラと思えなかった…。
警察官、特に公安の彼は恨みを買いやすいのはわかる。
探偵の私を恨んでる者も少なからず居るだろう。
でも…探偵をして五年、彼と過ごした三年を嘘だと思いたくなかった。
元上司の中野さんに調査を依頼したのは私の弱さだ。
彼女として彼に問い詰めるのも、プロの探偵として自分で調査することも出来なかった。
王明さんは本当に既婚者かどうか…?
私は三年間騙されたかどうか…?
全ては中野さんが持参したこの封筒に…。
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う、上が…ぼ、僕を指名したんだ。
頑張らないと…。
これは囮でも潜入でもなく、ただの聞き込み捜査なんだ…。
少女売春組織なんてただの噂であってくれよ…。
「ピンポーン!」
ごく普通の住宅街のマンションの一室。
表札には「自然の家ーネイチャーハウス」って書かれてる。ここまでは事前情報と一緒だ…。
「は~い!」
インターホンの声ではなく、直接ドアが開いた。
現れたのは制服姿にエプロンの女性だった!
まさかイメージプレイ実施中?
こんな清純そうな女の子がなんで?
「あれ?この時間にお迎え入ってましたっけ?どちらのお父さん…ってお年でもないですよね?とにかくどうぞ。」
高校生?にしては落ち着いた微笑みを返す少女。
そうだ、この部屋の表向きは…。
「いや、僕は子供を預けてる親じゃない。
警視庁四谷署の近藤です。
こちらは無認可託児施設の『自然の家・ネイチャーハウス』に間違いありませんね。
お話を聞かせて貰いませんか?」
潜入捜査じゃないのは身分を明かせる利点だ。
僕が刑事であることでまずは様子を見る。
ホントにこの子がお客を取るような女の子か?
確かにこんな普通の女の子が制服エプロンでサービスしてくれるなら…。って、僕は何言ってるんだ?
「ええ~?それホンモノの警察手帳ですか~?
初めて見たー!」
え?あのう…宇都宮先輩、この反応は白ですか?黒ですか?
「ねえねえ、制服のお巡りさんじゃないなら刑事さん?凄~い!」