麗香お姉さんは雪之介を伴って、中庭のベンチに座った。
勿論、その席は舞花と嵐の向かい。
学園の女王様が現れたことで、舞花の悪口に一生懸命だった子達も口をつぐむ。
まさか麗香お姉さんはわざと人前に?
全く、いつもいつも人騒がせな…って、その一部始終を陰から見てる私もどうかしてるけど…。
「ごきげんよう、嵐くん、瀬能舞花さん。
清々しいランチ日和ね。」
麗香お姉さんはたとえ悪口でも舞花が自分以上に注目を浴びたのが許せなかっただけかもしれない。
しかし、嵐と舞花の仲を見守りたいからわざと人目につく中庭に来たのかもしれない。
案の定、直ぐに取り巻きの一年女子が集まってくる。
そして嵐と舞花は人ゴミに紛れて校舎に入っていった。
「一年生の皆様、ごきげんよう。
たまには皆様に私のお弁当を振る舞いたくてよ。
雪之介!」
「はっ!麗香お嬢様のご好意だ。有り難く頂くがよい。」
「キャ~!ホントに私達が頂いていいんですか~?」
「ええ、相野家のシェフ、雪之介も皆様とご一緒出来て嬉しいわ…。
時にそこの貴女…。瀬能舞花について貴女の個人的見解を聞きたいわ…。
放課後、視聴覚室に一人で来なさい…待ってるわ…防音設備は完璧だから遠慮なさらないでね…。」
「そ、そんな!わ、私、片想いの先輩が…。」
「女!まさか麗香お嬢様のお誘いを足蹴にするつもりではあるまいな…?」
(ヒソヒソと)「えー、あの子何様?私なんてまだ麗香様からお声がかからないのに…。」
「どうせ麗香様の誘いを一度拒否して自分の値を釣り上げたいんだわ、あさましー。」
「ち、違うんです!
私は…。」
「前にも言いましたわよね?
この学園は牧場。私だけが牛飼い、貴女達はただのホルスタイン。
いい乳牛かどうかを決めるのは貴女の仕事じゃないわ。
それを身体に教えこまれたい…。」
「ヒィ…けっこうであります。
麗香様は…その…お綺麗だと思いますが、私はストレートで…し、失礼します!」
こうして舞花と嵐のカップルを一番けなしてた女子は麗香お姉さんとその取り巻きに粛正された。
その日の夜、雪之介は私だけにこっそりと、
「るんお嬢様、麗香お嬢様はあの後、とても小さなお声で『こんなんじゃ嵐くんに借りを返したうちにも入らないわ…はぁ…。』と、仰っていました。」
と教えてくれた。
麗香お姉さんはお姉さんなりに学園に君臨する自覚があるのだと、私は初めて知った。