舞花の嵐に対する気持ちは、一過性の熱病の様なものだと思っていた。
命の恩人として、理想の王子様として嵐が今だけカッコよく見えてるのだと思っていた。
暫く待てば元通り「まいるん」として軽音活動に集中出来ると思っていた。
でも…。
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「嵐くん、今日は頑張ってお弁当作ってきたんだよ!
天気がいいから中庭で食べようよ♪」
「そりゃ楽しみやなぁ。舞花さんは歌のほかにも何でも出来んねんなぁ?」
「そ、そんな事ないよ…いつも雪之介さんのお料理食べてる嵐くんのお口に合うといいけど…。」
「俺に作ってくれるその気持ちが嬉しいんや…。」
私が考えていたのは、あくまで舞花の気持ちだけだった。
舞花が嵐を好きなのはわかってたけど…。
嵐の転校初日の放課後、舞花はお礼として嵐に唄をプレゼントした。
それが最も舞花らしく、舞花の一番自信のあるものだからだ。
選曲した「PURE SOUl」は私と舞花を引き付けた歌詞内容だったが、それは嵐にも効果的だった。
「俺の大好きな曲や…ええ声やな…♪今まで歌った誰よりも上手いわ…。
なぁ、瀬能さん、転校したばかりで何も知らん俺の力になってくれるか?」
「…喜んで…。
でも、相野くんにたくさん友達が出来たら私は要らなくなるんですかぁ?
それは寂しいですぅ…。」
「ア、アホ…そういう意味やのうて…瀬能さんとはずっと…。」
「ずっと何ですか??その続きが気になります。」
「な、何やさっきのGLAYの歌とは別人みたいやな…。」
「…嫌いですか?」
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最後まで見てられなくて私はその場から立ち去ったから二人の会話の記憶はここまでだけど、私が逃げても、その夜枕を濡らしても、事態が好転するわけでもなく悪化の一途を辿るだけだった。
数日の内にクラスメートの「公認」を取り付け、みんなから囃し立てられていた。
そう、私達は完全に嵐の気持ちを考えていなかった。
嵐にも「その気」があった、嵐も最初から舞花を少し想ってたことを考えもしないって、私って救いようのないバカだわ(笑)。
でも…二人を快く思ってない者も居るわけで…。
「え?ウソ?あの一年が麗香様を刺そうとした女?
平気で酸素吸ってる意味がわかんないんですけどー?」
「仕返し避ける為に従兄弟をたらしこむって、音楽より枕営業が凄い才能なんですけどー。」
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「…騒がしいわね…雪之介、私達も中庭へ行くわよ。」
「はい、麗香様」