その日の夕食。
相野邸のダイニング
****
「話は聞いたよ。
とんだ編入試験と校内見学だったね、嵐くん。」
「ええ、とても勉強になりましたよ。」
「理事長にはるんと同じクラスにするように言っておいたわ。
一緒の方が何かと都合がいいでしょう?」
「お母さん、そういうのやめて!っていつも言ってるでしょう!
ホントにお母さんも麗香お姉さんも強引なんだから…。」
その麗香お姉さんは、今この席に居ない。
きっと恥ずかしい気持ちいっぱいで、私と嵐と同じ食卓に着けないんだと思う。
「雪之介、後で麗香の部屋に食事を運びなさい。
断られても、ドアの前に置いとくのよ。」
「はい、心得ております。
本日は麗香様の大好きな鴨肉ですが、今夜はおにぎりの方が喉を通りやすいかもしれませんね…。」
「私達より麗香の事をよくわかっててくれて助かるわ。」
「いいえ、それが私の使命ですから。」
****
「大変といえば、こっちも大変だったよ、嵐くん。
和歌山から届いた君の荷物の多さに驚いてね~。
なかなか君の部屋が片付かなくてすまない。」
「なによ嵐、あんた男のクセにそんな荷物あるの?
服や靴に気を使うタイプには見えないけど~?」
意外だった。
同級生の男の子の引越し荷物なんて、少しの着替えと漫画にゲーム程度と思ってたからだ。
「ありがとうございます、鮎兎叔父さん。
日用品さえ僕の部屋に運んでくれてたら後は…。」
「うん、事前のご希望通り、機材は離れに運んどいたよ。勿論、僕は専門外だから一切触ってないよ。」
「機材?まさかあんたも音楽やるの?」
「いや、俺が必要な機材ってのは実験道具と専門書のことや。
るんが見てもわからんモンばっかりやろな。
叔父さん、ほならお言葉に甘えて、離れにある月之介さんの隣の部屋を研究室として使わせて貰います!」
「うん、それがいい。
入学手続きが完了するまでまだ日があるからね。」
「ありがとうございます。
葬儀や試験での遅れを取り戻したいです…。」
「だからあんた何カッコつけてんの?鶏子ちゃんの玉子焼きはホントに美味しいんだから、それ以上何を研究するの?」
「父さんが書いた論文を元に、母さんが品種改良を繰り返して作り上げたんが鶏子なんや。
でも、まだ何かが足りん…。」
「あんな美味しい玉子以上に何を求めるの?
まさか『金の卵』でも生ませるつもり?」
「そうや、ええ勘してんな。」続