「つり橋効果」
特殊な状況下での共通体験は、二人を激しく惹き付けさせる。
私はなんでこんな余計な単語知っていたのだろう?
こんな言葉さえ知らなければ、目の前で熱く抱擁し合う舞と嵐の姿に、わけのわからない感情を抱くことはなかっただろう。
舞はただ泣きながら
「ごめんなさい」
を繰り返していた。
そして嵐は優しく舞の茶色い髪を撫でながら、
「アホ、謝るんは俺ちゃうやろ?、ほら。」
私達の教室に入って来たのは、麗香お姉さんをしっかりと抱き抱えた凛子お姉ちゃんだった。
勿論、両脇には雪之介と月之介も居る。
「大丈夫、麗香は気を失ってるだけね。
全く…。いくら強がっていても修行もしたことのないただの女子高生。
眠ってれば可愛いものある。
瀬能舞花、相野家の次女として、姉の不始末を謝るね。
本当に申し訳ない。
ほら、雪之介!」
「私こそレディに対して…どうかお許しを…。」
「いいえ…。私があんな事さえしなければ…。」
「瀬能舞花、麗香を仕止めたければ、いつでも狙うヨロシ!
但し、刃物は駄目ある!
『拳は鉄より熱い』これ、私の功夫の師匠の言葉ある!」
「し、しかし凛子お嬢様!それでは麗香お嬢様は依然として危険に…。」
「その『危険』から守るは雪之介の役目!違うか?
お前が麗香を『守る』の意味がわかってれば、こんな事は最初から起こってなかたある!
それより私は強い男が好きね!
嵐みたいに心も身体も逞しい男は婿にしたくなるね!」
『婿!?』
いつもなら強い男に興味を示す凛子お姉ちゃんの言葉に過剰に反応するのは月之介だけだったのに、まさか舞まで…。
「あ、あの…婿…?嵐さん、最初から凛子さんとそういうお話だったのですか?」
え?何なの?舞のこの反応何なの?
「アホ、凛子お姉ちゃんは最初からこういう人や!
それに俺なんかより、月之介さんの方が遥かに強いわ!」
「そう…よかった…。」
何がよかったのよー?
「ほら、舞花さん。るんにちゃんと謝らな…。」
「そ、そだね。あの、るん。確かに私は最初から貴女が相野グループの人間って知ってたけど、でも貴女と音楽を通じてその…。」
「あぁ、じれったい!舞花さんは迷惑かけまいと、わざとるんに嫌われようとしただけや!」
「ちょ、ちょっと言わないでくださいよ、嵐さん」
つり橋効果。「特殊な状況で恋に落ちた二人は長続きしない。」私は心のどこかでその言葉に期待していた。