アンカー対決は、前の三人が稼いだリードを、1組の長谷部が逃げ切れるかにかかっていた。
学校中の誰もが、学校一のお祭り男・林へ「奇跡の逆転劇」を期待していた。
「あれくらいの差なんて林くんの前じゃ無意味よ!」
一人の保護者の叫びは、大多数の観戦者の気持ちを代弁していただろう。
1組は「団結力」の象徴として「頑張り」を賞賛されたとしても、大衆は王座の座までは心の中で許してなかった。
ヒーローは逆境であれば逆境であるほど過大に評価され、大衆は順当なポジションに安穏とする者を「悪」と決めつけたがっていた。
リードはどんどん縮まり、ここで逆転を許せば、長谷部が林を差し返す可能性はゼロだった。
しかし、長谷部は抜かれなかった。
あれほどあったリードも、身体一つ、二つあるかないかの差を残してテープを切ることに成功した。
1組のアンカーは「団結」「頑張り」の象徴に加えて、十分に「個」のヒーローだった。
優勝は拓哉の所属する1組。
全員で掴んだ勝利だった。
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競技は遂に最後の騎馬戦。
同じ赤組同士、リレーで争った1組と2組も、この騎馬戦では仲間だった。
「五右衛門、お前の好きなドラクエの漫画であったみたいに、『勝者とは強い者ではない、生き残った者が勝者だ』のとおりや。わかるな?」
拓哉は岸元に合わせて、わかりやすい比喩をしたつもりだが…。
「わからん。何でドラクエなん?」
「提督が言うんは、無理して、白組の帽子取りまくる必要ないって意味や。
とにかく馬を崩して自爆しないこと、自分達が生き残ることだけ考えよ!」
「んじゃ、いくで!1 、2、3!」
1回戦は総当たり戦。決められた時間内で帽子を取り合い、生き残った数を競う。
練習の成果はばっちりだった。
拓哉の馬は動かなかった。
誰も拓哉の馬の帽子を狙おうともしなかった。
運動場中央では2組の「味方」林くんの馬が国士無双の働きぶりで白組を壊滅状態にしていた。
中には急ぎ過ぎ、自ら落馬する者も居た。
拓哉は改めて自分達の作戦勝ちを祝った。
制限時間を示すピストルが鳴った時、拓哉達の赤組の残数が際立っていた。
まずは赤組の1ポイント。
次は背の低い馬から順に18vs18の勝ち抜き戦。
だが敵の白組の快進撃により、赤組は拓哉と林くんの2騎だけになっていた。
立役者は「空手女子」茂松。白組は茂松の後ろにまだ6騎残していた。2vs7で拓哉の馬の出番となった。