拓哉以降の児童達は、クラス対抗リレーの選抜に相応しい、レベルの高い走りを見せていた。
特に2組は学年最強最速の林くんの前を走る森くんの存在も目立っていた。
彼もスポーツ万能で小学生とは思えない高身長の男児だった。
この二人が2組に固まった事が他のクラスから妬みの声が上がり、それぞれの走りで2組は一着を独占していた。
「森くん」と「林くん」で「2組の森林コンビ」と呼ばれ、午後最初の競技のクラス対抗リレーの下馬評は、2組はうなぎ登りで、拓哉の1組は芳しくなかった。
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徒競走の興奮も醒めぬまま、午前最後の演技の組体操が始まった。
点数に関係ない演技の披露。
ここでは赤も白もクラスも関係ない。
練習の成果を披露するだけだった。
友人の佐野も岸元も遠くで上手くやってるのはわかってた。だが、あがり症の拓哉を落ち着かせてくれたのは、ペア演技のパートナーであるケンタローの存在だった。
あまりに普段と変わらず物怖じしないケンタローの姿がおかしかった。
(今日は本番、養護の先生も観客席からの観戦で、ケンタローは一児童で、俺のパートナーであってそれ以上でもそれ以下でもない。
健太郎の健は健常者の健だ!)
教師の笛に合わせ、サボテンや倒立を披露する度に、教師の怒声や罵声ではなく、下級生と保護者からの拍手が頂けることが、「あぁ、今日が本番なんだな」と、改めて思う拓哉であった。
ペア演技が終わり、全体演技も終わり、メインの三段タワー も完成した。
テッペンに立つ1組の山田は、体育館での練習中に転落したこともあった。
しかし、それを乗り越えて、タワーの上で精一杯手を広げていた。

(画像はイメージです。実際の人物、団体とは関係ありません。)
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やり遂げた感いっぱいで昼休みに入り、拓哉は母と二人で青空の下で昼食を取った。運動会の中で、拓哉の至福の時だった。
4年生の時に引越してきた拓哉の家族。三つ上の兄がこの小学校の卒業生でないことは拓哉を呪縛から開放した。
低学年の時は「拓哉」ではなく「○○の弟」と呼ばれることが苦痛であった。
だが今の小学校に兄を知る者は無く、低学年の時は高学年の兄と一緒に食べてたお弁当も、自分が高学年になってから存分に母を独占出来た。
「兄はこの地を知らない」
当たり前の事実が拓哉に積極性を与えた