雲一つない秋晴れ。
その日は遂にやって来た。
やれることはやって来た。
拓哉に迷いは無く、ベストな状態で本番を迎えることが出来た。
結局クラスメートにそれ以上のインフルエンザ感染者が出ることもなく、当日の土壇場で負傷者でも出ない限り、クラス対抗リレーでの拓哉の出番はなかった。
拓哉の学校は変わっていて、六年生のメイン競技である組体操は、昼のインターバルの前に実施され、騎馬戦が最終競技であった。
下級生の競技、演技、徒競走が繰り広げられる中、拓哉は気持ちを整えていた。
先ずは六年生の徒競走。
低学年の頃は背の順で走っていたが、高学年からはタイム順だ。
つまり拓哉の列以降はリレーの補欠とレギュラー組が控えていて、拓哉と一緒に走る他のクラス三人も自分のクラスで6位なのである。
そしてそれは午後一番に実施されるクラス対抗リレーの前哨戦でもあった。
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運動会の本番で気をつけるのは、練習時の笛と違ってピストルを使うということ。
この音にスタートのタイミングを逃す者も多いが、普通の小学生ならピストルの音なんて一年に一度くらいで、来年になれば忘れていた。
フライングが二回続いても、退場はさせられない。
何故ならばこれは運動会だからだ。
二回のフライングの内、三人は絶対一回以上は飛び出していた。
二回ともフライングしなかったのは拓哉だけだった。
(え?俺の勝ちでええやん。お前ら消えろや)
と、心の中で思っても目の前でピストルを握る教師には伝わらない。
三回目のスタート。
遂に拓哉以外三人がフライングして、流石に教師から警告されると思ったが…。
(流しやがった!多数決かよ!運動会と民主主義は別物です!)
※0.1秒で思考した12才の個人的意見です。
教師の怠慢で最下位からの出遅れだったが、元々スタートは得意でない拓哉。コーナーで競り合い過ぎないことは転倒を避ける好結果となり、最後の直線に全てを賭ける!
…ほぼ4人が同着となり、ゴールフラッグを持つ教師は赤白両方の旗を上げた。
「惜しかったな、拓哉。あのスタートはおまけやで。河嶋センセ途中で投げたな。」
4組の佐野が自分のクラスメートよりも拓哉の健闘を讃えてくれる。
走り終わった拓哉を迎えるからには、佐野は拓哉より遥か前に走っていた。大柄な佐野が他クラスの肥満した児童や極端に背の低い児童と早めに走るのは、彼に取って徒競走が一番の難関だっただろう。
続