6年生は徒競走に組体操と騎馬戦をしなければならない。
拓哉の学校は1~4組まであり、だいたい1クラス36人くらいだった。
組体操はクラス関係なく、六年生担当の4人の教師が綿密に打ち合わせをしていた。
最初は各クラス身長順に、背の高い組は土台役になり、背の低い組は上に立つ役に回った。
しかし、ここからが教師の腕の見せ所である。
組体操とは単純に身長順で演技が出来るとは限らないのだ。
背が高くとも、同級生を肩車で担げない児童も居た。
また、背が低くとも、上に立つ恐怖に足がすくむ児童も居た。
「大きな身体のクセに」
と、岸元に向けられる児童全員の視線は無言でもその心意はわかっていた。
拓哉の次に1組で背が高い岸元は、同級生を肩車出来ずに苦しんでいた。
担任の犬井先生があの手この手とハッパをかけるが、とにかく立ち上がれない。
遂にはクラスで一番小さい巌本に交代しても結果は同じだった。
犬井先生は大英断をした。
「岸元、上ならいけるか?」
「…やれます…。」
(ん?ちょっと待て!)内心穏やかでないのは拓哉だ。
1組で岸元を担げるのって、俺だけやん?せっかく平均的な体格の松嶋と上手くペアになってたのに…。
担任犬井は迷うことなく、
「拓哉?いけるやろ?」
(やっぱり俺かい!いや、俺に拒否権ないし!)
それは拓哉の意地だった。
(何の因果でクラスで一番デカイからって、クラスで二番目にデカい岸元を肩に担がなきゃならないんだ!)
膝が震えながらも持ち上げ、肩車に成功した。岸元も意地を見せた。高さに怖がることもなく、拓哉の太ももに足の裏を着地させ、雄々しく両の翼を広げた。
組体操二人組の基礎技「サボテン」の完成だ。

(画像は参考です。)
しかし、岸元とのコンビはこれが最初で最後だった。
犬井先生は拓哉の負担をわかっていたのか、岸元は4組の佐野に預けられた。
佐野は体重80キロの巨体を誇る、教師以上の重鎮だった。
拓哉より遥かに「安定した土台」を手にした岸元は、少し離れた距離で生き生きしていた。
代わりに4組から来たのは少し学習に問題があるケンタローだった。彼には常に養護の先生が付きっきりで、突然騒ぎ出すこともあった。しかもケンタローは平均より体格が良かった為に拓哉に任されのだ