「卓越した能力を持っていたいが目立ちたくない。」
「賞賛は欲しいが責任は負いたくない。」
恐らく思春期には誰もが持つ、「傲慢な傍観者気質」を拓哉は確実にこじらせていた。
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小学6年生の9月。
新学期に級友と顔を合わせれば、拓哉の身長は抜きん出ていた。
遂にクラスで一番高かった岸元を抜き、自分が一番高身長となっていた。
これは拓哉が「目立ちたくない」と思い続けることの限界を示唆していた。
二学期の始まりは運動会の準備の始まり。
クラスで一番背が高い拓哉は早くもプレッシャーを感じていた。
入退場を回れ右で行進すれば、自分が「先頭」になるのだから。
マイクやメガホン、そして男性教師の大声の指示に委縮し、あれほど望んでいた高身長を、早くも疎ましく思いはじめていた。
それでも負けたくない気持ちもあった。
特に得意分野では能力を発揮したかった。
骨格の成長は、元からの足の速さを十分に助けた。
「いける!このクラスならいける。」
拓哉は運動会の花形種目である
「クラス対抗リレー」
の代表4人になることを望んでいた。
いや、正確には
「代表に入れるほどの能力があると評価されたがっていた。」
ということであろうか?
4年生、5年生の時には、「運動会男」の林くんと同じクラスだった為に代表から漏れたが、彼とは6年生で違うクラスになり、今の拓哉の居る1組の面子ならば、自分は代表4人に入れると思っていた。
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記録会を兼ねた体育の授業。
拓哉は万全のコンディションで最高のタイムを叩き出したはずだった。
このタイムの良い上から4人が代表となる。
1位ではなくとも、4位までは十分だと思っていた。
しかし…。
結果は6位。かろうじて
「補欠2位」に留まるだけだった。
補欠とは何とも中途半端なポジションだった。
代表と同じ様に朝練には参加せねばならず、しかも誰が抜けても即入れるように、全走者分のバトンリレーを練習しなければならなかった。
しかも代表に何かあっても先にお呼びがかかるのは、「補欠1位」の松嶋であって自分ではないのだ。
拓哉はこの損な役に嫌気を感じながらも、「名誉の朝練」に鼻高々な気分だった。(続く)
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第一走者 正田
一学期からの転校生。無口
第二走者 児山
私立お受験が決まってるインテリ。
第三走者 永田
3組に双子の弟が居る
アンカー 長谷部
スポーツ万能