「世間知らずとカエル嫌い」
数少ない弱点を衝かれ、屈強なる忍びにてプロサッカー選手の南部彩はホテルの一室で暴行を受けそうになっていた。
しかし、最大のピンチをギリギリで救ったのは、作家・志磨子の中学生時代からの恋人である真壁一樹だった。
「お久しぶりだね♪南部さん。君達の引退式サッカー以来だよね?
でも、君の活躍は知ってるよ。
浦和レディースも応援してるよ。」
華奢で小柄な青年。中性的な顔立ちと声。そして蠱惑的な仕草は今まで数多くの女性を虜にしてきた。その彼の浮気癖は、島敦子の長年の悩みの種でもあった。
「ま、真壁先輩!?どうして?そしてそのハウスボーイの制服は?」
南部が驚くのも無理はない。
密室での危機を救ったのは、突然作動したスプリンクラーと、彼がワインの載ったワゴンを勢い良く相手の大島編集にぶつけたからだ。
壁とワゴンに挟まれたままの大島をよそに、その肢体をワゴンにもたれさせて軽妙に話す。
「それがさ~、蒼磨ったら人使いが荒いんだぜ~。俺が就職セミナーでこっちに来てたら、急にあいつの使用人達に拉致されて、一橋ホテルの制服を着せられてこの有り様さ♪
いくら蒼磨が俺の可愛い後輩でも急過ぎない?
彼女の君からも言っといてよ!」
口ではそう言いながらも、この制服を気に入ってる真壁だった。
「か、彼女?いえ、自分は…そんな蒼磨様に対して…。」
「そこは恥ずかしがるんだね♪それよりも、その後ろ手の手錠で四つん這いの格好の方が恥ずかしくない?」
「ひゃあ~!み、見ないでください!早く助けてください!」
「カエルさんを先に助けようか?」
「やめてください!ウワ~ン!」
「ごめん、ごめん。泣かない、泣かない。
全く、蒼磨もいい彼女をゲットしたね~。」
「そ、そんな何度も彼女と言われたら…。」
「…あの、君さえ良かったら…緊縛のまま部屋を出ようか…?」
「外してくださいませ!」
「はいはい。対象者保護に成功。プランCに移行!」
無線で指示を出し、南部を抱えて部屋のドアを施錠する。玄関との間に大島を残し、どのようにして部屋を出るかと思ったら…。
「俺はただの御者だよ。
本命の白馬の王子様はここからお出ましさ。」
奥の部屋の窓を開けた瞬間、バリバリとけたたましい轟音が鳴る。
ホテルの高層階に横付けされたヘリコプターには、彼氏の一橋蒼磨が同乗していた。
「彩くん、無事で良かった…!」続