志磨子はまだベランダに佇んでいた。
そして夜景を見ながら呟いた。
「そう…。本当に辛い時、苦しい時は『助けて』をちゃんと言わないとね…。『ありがとう』『ごめんなさい』位に大切な言葉なんだから。
カールクリラノースくんと三好先生が教えてくれたこと…。」
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今まさに行為に及ぼうとした瞬間、大島編集はホテルのボーイと、テレビの音声に邪魔された。
「対象者保護プログラムA実行中。対象者保護プログラムA実行中。」
リモコンでスイッチを切っても、繰り返しテレビはONになった。
そしてドア越しにボーイはしつこくノックし続けた。
「大島様~!居るんでしょ~!?
ワインのおかわり、ホテル側のサービスですよ~。
早く開けてくださいよ~。」
とてもホテルマンの口調とは思えないしゃべり方と大声に、大島編集だけでなく、拘束された南部彩も違和感を憶えたが…。
(対象者保護?とは自分のこと?まさか…自分が叫んだ瞬間にテレビのスイッチが入り、ドアがノックされ…。そして、この甘く中性的な優しい声のボーイさん。何処かで聞いた様な…。
いや、それより脱出だ。こんな玩具の手錠など…。)
せっかくのチャンスを邪魔された大島は苛立ちを憶えた。
適当にあしらって追い返すことも考えたが、中に入られ南部彩に助けを求められると厄介だ。と、やり過ごすことにした。
「全く、天下の一橋ホテルが聞いて呆れる。
何て教育してんだ。
事が済んだらクレームを入れてこのボーイをクビにしてやるぞ!」
矢のようなノックと叫び声が止み、ようやく帰ったかと思ったら…。
「本人は解錠を拒否。プランBに変更~!」
と、ドア越しにボーイが叫ぶと、非常ベルが大きく鳴り、天井のスプリンクラーが作動した!
「うわぁ、冷たい!何だこれ!?」
スプリンクラーの水は一切、南部彩にかからず、激しい水流は大島編集のみを狙い撃ちにしていた。
「ホテルが自分を守って…?それに気付きませんでしたが、ここは一橋ホテルとは…まさか…?」
スプリンクラーは大島が何処に居ても水流を浴びせ続けた。
「早く開けてくださいよ~。氷が溶けるじゃないですか~。」
「くっ、ボーイにこの水の止め方を聞き出すしかないか…?」
と、仕方なくドアを開けた瞬間…。
「お待たせ致しました~!」
「ガハッ!」
ワインを載せたワゴンと壁に勢い良く挟まれた!
ボーイの正体は島の彼氏、真壁一樹だった