「いやいやいや、鬼族といえば直ぐに酒天童子様を連想されるのは違うぞ!
あれは昔からの鬼のイメージに、難破したロシア船員を重ねたからこそ起きた悲劇なんだよ!」
『えっ?酒天童子って鬼じゃないんですか?』
スケッチブックに最もな疑問を書く明日香さん。
私達天使も、ヨーロッパとの結びつきが強くて、当時の日本の歴史には疎いからとても興味深いです。
「あぁ、酒天童子様は正確には『退治された後に鬼になった』だな。」
「『退治』。
私達妖怪に取って、人間達に都合良く使われてきた言葉ですね…。
わかります。
人間は自分と異質な者を排除して、それを『正義』といいますから…。『鬼』扱いされたロシア船員さん達の気持ちわかります…。」
悲しげに前のめりに俯く沙代理さん。
饒舌に語っていた鬼頭さんも彼女の様子に気付き…。
「そうか、人魚も『肝を食べれば不老不死』なんて伝説が常に人間界にあったからな…。わかるぜ…、沙代理ちゃんの気持ち…。」
と、向かい合うテーブルから手を伸ばして彼女の手を握ろうとしたが…。
「うん、鬼頭さんの視線が私の目を見てくれたら、手ぇくらいOKだったのにね~!
さっきから私の胸元ガン見しながら共感を誘うこと言われてもね~。」
途端に気まずくなった他の男性陣は目を逸らす。
今日という日にヘソ出しのチューブトップの服を着てくれば、女の私でも目がそこに行くです!
…絶対にわかっててやってるです。
人魚は歌わなくとも誘惑する能力があるですか?
「あぁ、はっきり言っておくが、『デカいは正義』だ!大きければ大きいほどいい。」
「ブレないなぁ。『隠れた心』はどうしたのよ!」
「まぁ真面目な話、般若とか鬼婆とか女性の中に潜む心の方が鬼に近いかもな。
鬼婆は自分が仕える姫様の病を治す為に、妊婦の肝を狙った。しかし、その妊婦は田舎に嫁いだ数年ぶりに会う自分の娘だったんだ。」
『悲劇』
明日香さんの書いた文字の通りです!そんな母が娘を…。
「娘は妊娠で容姿が変わり、母は心労でかつての面影がなかったのさ。娘は母に刺されたから死ぬのではなく、出産で死ぬと思い、最後の最後まで『世話をしてくれた旅先のオバサン』に感謝して死んでいった…。それが鬼婆さ。酒天童子様より遥かに鬼の本質に近いさ。」
「しかし、悲劇はその母娘だけでない。
生まれてこなかった赤子も含まれている。」
と切り出したのは河童の河野浄一郎さん。