あれから三日。
黒スーツの男は毎日店に来て、北御門さんと長時間話し込む。
それは勿論、この男が持ち込んだ日本刀「虎徹(こてつ)」を買ってもらう為だが、明らかにただのセールス目的ではなかった。
「…まぁ、原さんは小アルカナにも通じてらっしゃるのですね。
私はタロットは大アルカナまでしか…。」
「いえいえ、大した事はありませんよ。
私は、火の中に入れた陶器の割れ目で占う「火占」を友人から学びたいのですがこれがなかなか…。」
「随分古風な占いにも精通されてるのですね…。
とても興味深いですわ…。」
「もし、よろしければ続きはディナーの席で…。」
「ええ、喜んで…。」
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17:00になれば学生バイトの鶴見さんと交代で北御門副店長は仕事を終える。
原という虎徹のセールスマンはわざと北御門さんが仕事を終える時間を狙って来店したようだ。
先日まではこの男を「結婚詐欺師だ!」と騒ぎたててた鶴見さんも、「占い」という共通の話題で親密になる二人を祝福しだした。
「あの二人いい雰囲気じゃない?
年も近そうだし、あのみかりんにこんなチャンス滅多にないよ~。
佐田ちん駄目だよ、彼を結婚詐欺師呼ばわりしたら!」
「私はそんなこと言ってません!鶴見さんの方が…。」
と、言った所で言葉を止める。このタイプの女性には不毛な論争だ。
大人同士の自由恋愛を詮索するつもりはないが、気がかりはある。
あの男は「刀が貴女を選んだ」と言った。
万が一それが本当ならば、魔界や天界の者が関わってる可能性もある。奈々子とルシファーが天界からまだ帰還せぬ間は、余は店を守らねばならぬ。
事務所で見つからないように、余は両手のブレスレットを外し、魔力を解放する。
「来れ!ソロモンNo.18瞬速の悪魔バティンよ!」
事務所に描かれた魔法陣から出現した痩せ身に切れ長の目の男。
現れるなり膝を折り、
「お久しぶりです、サタン様。再び私を最初に召喚してくださり、光栄の極みでございます。
事情は魔界から見ておりました。
ご命令はやはり…。」
大魔王サタンこと佐田星明に忠実に従う悪魔のバティン。
「あぁ、あの原という男の監視及び北御門さんの護衛を頼む。」
「畏まりました。
では『対価』の方を。
去年は後払いで散々なオーバーワークでしたので…。」
「喫茶ロビンフッドのライヴペアチケットでどうだ?」
「これは破格な!妻も喜びます…。」