お父さんとお母さんは楽しそうに話が盛り上がり、早目に寝室に行った。
おかげで僕は夜のパソコンを独占して、燿子ちゃんと明日の「対策」を検討した。
勿論、結論は出なかった。
僕は小学生だ。
会社や役所が決めたことを覆すにはあまりに無力だと思う。
それに、お母さんはお父さんが中心となったこの仕事の成功を望んでるわけで…。
****
「おはよう、賢司くん。けっこう冷えるねぇ…。
まぁ、おかげで休日のお姉ちゃんは全く起きなかったから、安心して出てこれたけど…。
賢司くんは何て言って出てきたの?」
「僕は『山南先生の課題が終わってないから早く行く』って言って出てきたよ。」
早朝、日の出とともに南町公園に入った。
入り口のフェンスを乗り越えて、砂場にまっしぐら。
公園の工事が始まるまでに、サミアちゃんとどうしても話したかったからだ。
「おはよう、サミアちゃん。」
「ほう、早いな。それもお揃いで。
願いは何だ?
それともスコーンが欲しいか?」
サミアちゃんは既に起きていて、いつも通り老眼鏡を上げながら昨日の夕刊を読んでいた。
「もう!何で落ち着いてられるの!?
私達が朝一でフェンス越えてまで会いに来た理由くらいわかるでしょ!?」
サミアちゃんのあまりに普通の態度に燿子ちゃんが怒った。
「まぁ、落ち着け。
住み処を追われるのはもう慣れておるわい。
ここは土も空気も綺麗じゃから、もっと長く居たかったが…。
仕方あるまい、工事が始まるまでにここを発つとしよう。
最後にお前達に会えて嬉しかったぞ。」
サミアちゃんのその言葉に僕より早く燿子ちゃんが反応した!
「何よ、最後って!?
ふざけないでよ!
私、嫌よ!サミアちゃんと別れるなんて絶対に嫌!」
「燿子ちゃん、落ち着きなよ。
公園を追われても、新しい住み処が見つかれば、また会えるんだし…。」
僕はサミアちゃんがここを出たいなら気持ちを尊重しなきゃと思ってた。
「わかってないなぁ、賢司くん。
サミアちゃんが住める場所なんてすぐ見つかるわけないでしょ?」
「燿子、お前、気付いたか?」
「ええ、私、やっとわかった。
ホントに空気と土が綺麗なら、山や森に住めばいいのよ!
なんで町の公園を好んで住んでいるのか?
それは、サミアちゃんにとって、『子供の願いを叶えること』は自身の命の根源だからよ!」
「そうか、だからいつも魔法でスコーンをくれたり、魔法のヒントを…。」