「ほらほら、ここは保健室よ、静かになさい!
それに南部さんは怪我してるんだから騒がないの!」
三好先生に注意されて静かになった所で、真樹ちゃんはみんなに頭を下げました。
「ご、ごめんなさい…。
私のせいでせっかくの勝負が台無しに…。
それにあんなに活躍してた南部先輩を怪我させるなんて…。」
真樹ちゃんと南部先輩が和解してるのは、保健室に入った時の雰囲気ですぐにわかりました。
しかし、みんなの前で故意的にファウルしたことを謝罪すると、真樹ちゃんは再び肩を震わせ涙を流しました。
「ごめんなさい…。ごめんなさい…。」
下を向いたまま、泣き続ける真樹ちゃんの表情は、黒のロングヘアに隠され読み取れませんでした。
そんな真樹ちゃんの肩に、保健室ベッドから上体を起こした南部先輩が手を添える。
「皆、宇都宮さんは技術も経験もまだまだこれからの選手です。
だからこそ自分をはじめ、皆が暖かく見守ることが大切だと思うのです。
どうか許してやって下さい。
自分は大丈夫ですから。
宇都宮さん、それに君には本当に謝るべき人物が居るだろう?」
南部先輩に促され、ハッと気付いた真樹ちゃんは、その場に居た愛ちゃんに目を合わせて言いました。
「愛ちゃん、本当にごめんなさい…。
南部先輩が居なかったから私、取り返しのつかないことを…。」
愛ちゃんは硬い表情で真樹ちゃんを睨み付けて言いました…。
「実際に怪我をしたのは南部先輩です。
ですから宇都宮さんが私に謝ることも、私が宇都宮さんに謝られる様な関係性では無いのです…。
南部先輩が許してるならそれでいいです。」
愛ちゃんは普段通りの『真樹ちゃん』では無く、わざと『宇都宮さん』と呼びました。
まだ恨みを残してる…。と思ったら…。
「…と言いたいですが、残念ながら真田先輩にお願いされたです。
『どうか宇都宮さんを責めないでくれ』と。
あの方は真樹ちゃんに毅然とレッドカードを提示しながらも、真樹ちゃんのフォローも忘れてなかったです…。
そしてファウルの矛先を向けられた私へのフォローも…。
真田先輩はそういう方です…。
私はそんな…いえ、何でもありません。
…今回だけは真田先輩の顔を立てて許してあげても…いいです…。
真樹ちゃんは軽音、私は漫画…。練習時間の無さに焦る気持ちはわかるです…。」
言い終わると同時に右手を差しのべる愛ちゃん。
堅い握手を交わす二人の手に南部先輩が手を添える。