疑
「可憐な少女ヴェルティよ、その髪、その瞳、口唇!
そなたが男を惑わすスクーグズヌフラと言うのなら、
私にとっては地獄の業火も生ぬるい!
可憐な少女ヴェルティよ!
君はただ少し複雑な育ちをしただけだ!」
「あぁ、トーレス。信じてくれるのですね。
全ては悪質な木こりの逆恨み…。
旅人の噂は知っています。
あろうことか、私が男の精を搾り取る下級悪魔の一種などと…。
本当は木霊(こだま)を介さず貴方の声を聞くのも、ニンフ(ティンカーベルの様な妖精)の鏡を介さず、貴方に姿を見せるのもこれが初めてだと言うのに…。」
「森の番人ヴェルティよ、では何故、私の目の前に現れた?」
「トーレス、それは貴方だから…。
との答えでは不満足ですか?」
「ヴェルティよ、何が不満なものか、私の中にはそなたと同じほどの情熱が存在する!」
「あぁ、トーレス、私のトーレス。
行きましょうか、今から?
私の小屋にて愛を語ろうではありませんか?」
「『彼』の下を私は離れることは出来ない。
ヴェルティよ、そもそも薪を拾いに来ただけだ。
戻らなくては。」
「トーレス、私には貴方しかいません。
貴方は私と愛し合えずとも、この森の為に、私の為に尽力してくれますか?」
「『彼』の従者である私に満足な自由はない。
しかし、森の為ではなく、美しきそなたの為ならこの命惜しくはない。」
「誓ってくれますか、トーレス?
永遠に私の物になると?
私だけのトーレスでいてくれると、私の碧の瞳に誓ってくれますか?」
「『彼』の任務を果たさずして私は私ではない。
全てが終わればこの身を喜んで捧げようではないか!」
「トーレス、貴方…。
三度ともその答えは…。」
「よくやったぞ、我が従者トーレスよ。」
「我が主よ、言い付け通り、三度の誘いを断れました。」
「スクーグズヌフラよ!残念だったな。
お主の誘惑に対して決して『yes(はい)』と言ってはいけない。
代わりに三度『he(彼)』と答えれば文字通り『尻尾』が現れる。」
「おぉヴェルティよ…!
その美しき肢体に似合わぬ牛の尻尾がそなたの身体から…。
疑いたくなかった…。
人間の女性だと信じたかった…。」
「我が従者トーレスよ、『悪魔は羊の皮を被ってやって来る』だ。
『今から誘惑します。』と宣言する女がいるわけなかろう。終わりだ。」
「人間でないとの理由で私を切れば、他に誰が森を守れる?」