深夜
「我が友よ、不思議なほどに何も起こらなかったな。
まじないが効いているのか、スクーグズヌフラの痕跡さえ出会わなかったな。」
「カイレフォンよ、遭遇しないに越したことはない。
今夜はここまでだ。
この調子なら明後日の昼には森を抜けれそうだ。」
「我が友よ、順調で何よりだ。
デラス、野営を。ハリステアスはたき火の準備を。」
「守護天使も確実に増えてる。あと7人…。
大丈夫、私達は守られてるから…。」
「トーレスよ、今日の見張り番はお前だったな。
薪を切らさぬよう、たき火を消さぬように注意せよ。
異変に気づけば直ぐに知らせるのだぞ。」
「我が主よ、了解しました。安心して休まれよ。深夜になればジャンナコプーロスと交代しよう。」
「…薪が切れたか…。」
「ガサガサッ」
「スクーグズヌフラは草ずれの音により姿を現すと聞いたが、まさかこの僅かな移動距離で…。」
「…あのう~。」
「出たな悪魔め!我が剣の錆びにしてくれようぞ!」
「あっ、悪魔とは何のことですか!?
い、命だけは…。」
「おぉ、いきなり刃を向けて失礼した。
何と可憐な少女よ。
こんな夜に森で一人歩きとは危険過ぎるぞ。」
「私は森の番人ヴェルティ。
ピクシーが貴方達のハーブで作った薬草をお持ちしました。」
「ピクシーが?
お前やはり魔物か?」
「『魔物』そうかもしれませんわ。
幼い時に父と二人でこの森に入り、父は心臓の病で急死しました。
以来、十余年ピクシーや他の妖精に育てられた私はもう…人間ではないのかもしれません。」
「可憐な少女ヴェルティよ!君にそのような過去が…。
よし、今から皆に君を紹介しよう。
一緒に来てくれ!」
「…いいえ、薬草を渡すという私の役目は終わりました。
…ですが、貴方とだけはまだ傍に居たい気持ちです。」
「あぁ、俺も何だか君の瞳を見ていると離れたくなくなる…。
何て不思議な気分なんだ…。」
「語りましょう、一晩中。
聞いて下さいませ。
この森の真実を…。」
「ヴェルティ、それでは君はずっと…。」
「はい、祈りを捧げずに、やみくもに伐採する悪質な木こりだけにピクシーの幻を使うだけですわ。」
「でも、迷った木こりは…。」
「2日ほど迷わせたらちゃんと帰しますわ。
それが森の秩序です。」
「じゃあ、精を搾るスクーグズヌフラってのは…。」
「トーレス、…貴方は私がそんな悪魔に見えますか?」