運命
「アルラウネよ、この一月、私達はやれることをやった。
私が来た道を帰られなくなるほどの災厄はホントに来るのか?
そしてそれは何なのだ?」
「…私にもわからない…。
自分に近い予言ほど曖昧な画しか視えなくなるの…。
大きな予言ほど身体にかかる負担も大きくなるの…。
私達は自分の事を予言してはいけないの…。」
「それは何故だい?、アルラウネちゃん?」
「カイレフォンよ、簡単なことだ。
もしも自分の未来がわかるなら、人は私利私欲に走り、刹那的な豊かさに溺れるだろう?」
「我が友よ、それのどこがいけない?
人とはそもそもその様な生き物なのでは?」
「カイレフォンよ、享楽を求めるのが悪ではない。
享楽により、人の力と命に限りがあることを忘れるのが悪だとは思わぬか?
私利私欲に走った者の末路は、死を回避しようとするだろう!
そして自らの死を予言出来ても、それが避けられぬと知れば…。」
「そいつぁ、生きながらに死んでいるってわけか、我が友よ。」
「カイレフォンよ、その通りだ。
自分の事を予言してはいけないとは、長らくの魔女の歴史が生み出した知恵であろう。」
「…私は天使や妖精じゃない…。
空飛べないし、重い物を宙に浮かせられない…。」
「それでいいんだよアルラウネちゃん。
だから俺達が中心になって、地震や津波が来た時の備えや蓄えをしてきたし、頑強な建物を多く作った。」
「お兄ちゃん、私わからない…。
予言が出来ても、役に立つ時と立たない時がある…。
お母さんの病気は治らなかったし、お父さんは帰ってこない!
未来を知ってても何も出来ないなら、私こんな力いらない!」
「アルラウネよ、まだ七つのお前に何たる重き運命…。
アルラウネよ、私にお前の問いを全て満たす解はない。
ただ過去の賢者は言った。
変えられるものを変えようとする勇気を持ち、
変わらないものを変わらないと受け入れる静かな心を持ち、
変わらないものか、変えられるものか、そのどちらかを見抜ける知恵を持て
と。アルラウネよ、年端もいかぬ少女のお前にはまだまだ知ることがある。
道が塞がれることが不可避な未来なら、お前と仔猫のシュヴァーシュの案内で森を抜けようではないか?」
「…お兄ちゃん、じゃあ私を連れて行ってくれるの?」
「アルラウネよ、それが不可避の未来ならそうしようではないか!
だが、まずは来るべき災厄に備えることだ。」
続