平和
「我が友よ、よく雨が降るとわかったな?
敵は音と視界を遮られ、俺達の奇襲は大成功だ!
まさに恵みの雨と思わんか?」
「カイレフォンよ、私は雲と風の流れから予測したに過ぎない。
しかし、それが『恵み』かどうかはゼウスの意志次第だな。」
「ゼウスは俺達に『裁きの雷』を落とさなかった!
それが祝福だとは思わないか?」
「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
しかし、敵兵にも雷は落ちなかったさ。
カイレフォンよ、私はお前の思慮が羨ましい。」
「我が友よ、今宵くらい勝利に浸ろうではないか?
国境沿いの村の平和 を取り戻したのだぞ?」
「カイレフォンよ、その部分には大いに賛同する。
『秩序の向上』は、私が戦争を肯定する数少ない理由だ。」
「俺達がやっつけてやらなきゃ、民は税と労働に苦しみ、盗賊に怯える日が続いたってのに、何も知らずに戦争を否定するだけの知識者階級が多すぎる。」
「カイレフォンよ、私にはわからない。
治安が悪く、圧政が続いても戦争が無ければ『平和』なのだろうか?」
「我が友よ、君にわからないことが俺にわかるはずなかろう。
但し、俺達は決して『天罰の代理人』ではなかった。
それくらいはわかるさ。
なんせ俺は雷を落とせない(笑)。」
「カイレフォンよ、初めてお前が友人であることを誇りに思ったぞ。」
「さぁ、晩餐を楽しもうではないか。
村の方々の厚意だ。」
「本来なら私達が村人に尽くさなければならないのに…。
申し訳ない…。」
「異国の兵隊である貴方達に私達は感謝しているんですよ。
貴方達のおかげで王は失脚し、我が物顔の国軍兵はいなくなった。
貴方達は盗賊から守ってくれるし、村人同士の争いに耳を傾けてくれる。」
「異国人の母よ、俺にはわからない。
だから教えてほしい。
この戦争は正しかったのか?」
「異国人の英雄さん、それは私にもわかりません。
でも私の息子は王に心酔し、喜んで国軍に参加しましたが行方不明です。
王が失脚した今、息子は逆賊のそしりを受けるかもしれません。
ここに息子の居場所は無いかもしれませんが、生きて帰ってくればせめて私だけは温かく迎えたいです。」
「カイレフォンよ、これが現実だ。国と国との争いにそもそも村人は関係ない。」
「異国の英雄さん、息子の忘れ形見からもお礼を言わせて下さい。」
「お嬢ちゃん、お名前は?」
「…アルラウネ…。」
続く。