一目惚れしたレギーネに近づく為に、キルケゴールは男友達を利用しました。
そう、キルケゴールには明らかに故意だったので「利用した」が適切な表現なのです。
好きな相手を惚れさせる為に、キルケゴールが用いた手段は「無視」と「嘲笑(ちょうしょう)」そして「自身の哲学」でした。
友人もレギーネを愛してました。
友人はキルケゴール以上に、以前からレギーネと面識がありました。
が、純朴すぎる彼は、自分の恋の成功をキルケゴールの友情に頼るしかなかったのです。
キルケゴールは快諾し、彼の応援をすることにしました。
ここからがキルケゴールの腕の見せ所です。
彼がレギーネ宅に訪問するための、持っていく土産、行き詰まった時の会話、そして着ていく服のカフスの一つに至るまでアドバイスしたのです。
そしてキルケゴール自身はわざと汚い服を着て、彼を引き立てる様にしたのです。
後にデンマークでは着替えずに同じ服を着続けることを
「キルケゴールみたい」
と言う様になりました。
しかし、キルケゴールがこのような意図を持って行なっていたことはあまり知られていないのです。
そして彼がレギーネ宅に訪問する時には必ず自分も一緒についていったのです!
キルケゴールはひたすらレギーネの叔母と会話をしました。
またこの叔母が非常に知識人で、裁縫に料理はおろか、政治や経済までキルケゴールと同等に会話をしていたそうです。
レギーネは幼く、友人の彼は愚鈍で二人の会話に入っていけなかったそうです。
たまにレギーネが叔母とキルケゴールの会話に口を挟むと、キルケゴールは無視するか、小馬鹿にして笑うだけでした。
そして何とも奇妙な「四人の友情」が長く続くのです。
レギーネはすっかり、「キルケゴールは叔母に会いに来てるもの」
と思い込む様になった時、友人の彼はレギーネに婚約を申し込むことを決心したのでした。
彼は想いを打ち明けましたが、レギーネは自分でも理解出来ない気持ちになっていました。
彼の申し出を断る理由が余りに馬鹿げているからです。
「自分の叔母とばかり喋り、たまに私に口を開いたかと思えば、見下した態度で笑う彼の友人、キルケゴールなんかを好きになっているなんて…」
これがレギーネの心境でした。
彼の申し出は丁重に断り、キルケゴールとレギーネの交際は「計算通り?」始まるのでした。