やっちまった……やっちまったなあ。
いやマジでやってしまうとはなあ……。
気が付いたら身体が先に動いてた、ってことあるだろ?
今日のがまさにそれだった。
事が起きたのは、昼休み。
四時間目の授業を終えた俺は、意気揚々と図書室に向かっていた。
そこへ行くのは、本が読みたいとか自習がしたいとか、そういう理由じゃない。
ただなんとなくそこに居るヤツと戯れて、ただなんとなく時間を潰すためだ。
ただなんとなくそこに居るヤツ「おう」
図書室に着くや否やさっそく声をかけられる。俺は挨拶を返す代わりに——
俺「死ねーっ! Nっ!」
——拳を返す。
ただなんとなくそこに居るN「おいwやめろw」
もちろんは当てはしない。何故なら、ただなんとなくそこに居るこいつNは、ただなんとなく友人だったからだ。
ボキャ貧でちょっぴり照れ屋な俺を受け入れてくれる、心の広い友人。
俺「うし、今日も行くか」
そんな俺たちの、ただなんとなく昼休みの時間を潰す方法は、ただなんとなく学校中を歩き周ることだった。
入学したての一年生が行くそれより深く、隅々まで、周る。歩きながら、他愛もない雑談に花を咲かす。すると午後の授業に遅れる。これがいつものパターン。
そして、今日も今日とてその悪循環を繰り返すべく、図書室を出ようとしたそのとき——
「おい」
——事が起きたんだ。
声をかけてきたのは、生意気な二年生。
声をかけられたのは……俺ならよかったんだけど、そうじゃなかった。
生意気な二年「おいっ、N」
その、凡そ上級生に対するものとは思えない口の聞き方で、Nにからもうとする。
Nは、とてもからまれやすいヤツなんだ。背が小さい体が弱い、おまけに頭が良くて変わり者と来たら、よくない目で見て来るヤツも少なくない。
現にこいつと同じクラスだった高一の頃(高二で別れた)、クラス内で、こいつはそういう状態にあった。
そういう状態にあったけど、俺は関与できなかった。なぜなら俺もそういう状態、つまり苛めにあっていたらからだ。
でも、いまはちがう。
俺は生意気な二年の方を振り向くと——
生意気な二年「ん?」
——ゆっくりと、近付いていく。
やがて息のかかる距離まで顔を近付くと、壁際に押しやる。
俺「生意気だね」
二年「はあ? なにあんた?」
背も高いしがたいもいい、きっと運動部のやつだろう。
俺はそいつの両腕を掴み、爪を食い込ませると——
俺「このひと何年生?」
——Nを指差しながら、二年生に、問う。そいつは、特に臆した様子もないまま答えた。
二年「三年だけど」
俺「てめーは」
二年「はあ? なにが」
俺「てめーは、何年だって聞いてるんだッ!!」
この、『何年だって聞いてるんだ』辺りで、拳がでていた。
いつもNに対してやるそれとは違い、正確に相手の頬をとらえていた。
二年生の表情は急に臆したものとなり、俺に「すいません」と言ってきた。「俺じゃなくてNに謝って」と答えると、そいつはNに「ごめん」と平謝りをした。
俺が「ちゃんと謝れ!」と言うと、そいつは「ごめんなさい」ちゃんとNに謝った。
俺「あかん、やってもうた……」
N「ああいうおまえ久しぶりに見たぞw」
図書室を出てからNに言われる。
俺「もともとそういうキャラじゃない癖に、無理矢理貞子みたいな目つきして標的にされた一年の頃の話か……?」
N「うんwはじめて話したときみたいだった」
はじめてこいつに話しかけられた時のことはよく覚えている。
友好的に接してくれたNに対し、俺は例(霊)により貞子の目つきでローキックを入れた。あほだろ? あのときは自分以外のすべてが怖かったんだ。
仲良くしたいのに、怖いから遠ざけてしまう。
でも次の休み時間、
俺(これでもうあいつは俺に話しかけてくれなくなるだろう)
独り自分の席で俯いていると、
N「よー、貞子っw」
そいつはまた来てくれた。
ちょっぴり照れくさくなった俺は、今度は爽子の目つきで空振りのローキックを入れましたとさ。
俺「あー緊張した……腹痛い…うんこでそー…」
俺「もう絡まれるなよ…このままだとこの学校の生徒全員を殴らなきゃいけなくなる…ビビりの俺には荷が重い」
N「内向的な貞子だねw」
俺「いっそおまえだけを殴ってやろうか」
N「おいwやめろw」
いつもより楽しそうに笑うそいつに、俺は空振りのラリアットをかました←
腐れ縁なんて死んでも言わないんだからなっ←
