相変わらずこの方は長打と打点の話ばかりですが、「それも打撃能力なんだから、仕方ないんです。(中略)打率だけで話をするよりマシでしょう。」とのことです。
打率だけで話をするのも、長打と打点だけで話をするのも一面的であることは同じなのですが。
上記の記事では、セイバーメトリクス(OPS)について、その元となる長打率がシングルヒットでも上がってしまうからおかしい、という批判をしていました。セイバーメトリクスでも古典的な指標でも欠点はあるわけで、何が評価されていて、何が評価されていないのかをきちんと踏まえて解釈することがデータを見る上では重要です。
今日はセイバーメトリクスの一つの見方を紹介したいと思います。
さて、この方も他のアンチイチローの方もよく批判している内容として
(1)打点が少ない
(2)長打が少ない
(3)内野安打の比率が大きい
といったものがあります。これらは正しいですが、一方で
(4)打率や出塁率が高い
(5)三振が少ない
(6)盗塁が多い(盗塁成功率も高い)
といったプラスの要素もあります。
これらを個々に見ていただけでは全体としてどう評価すべきが見えてきません。
そこで、これらをチームの得点への寄与という観点からどう捉えるべきか考えてみたいと思います。
そのために、RE24という指標を取り上げてみます。
次の表を見てください。(出典:Tangotiger, Run Expectancy Matrix, 1999-2002)
| 0アウト | 1アウト | 2アウト | |
|---|---|---|---|
| ランナー無 | 0.555 | 0.297 | 0.117 |
| ランナー1塁 | 0.953 | 0.573 | 0.251 |
| ランナー2塁 | 1.189 | 0.725 | 0.344 |
| ランナー3塁 | 1.482 | 0.983 | 0.387 |
| ランナー1・2塁 | 1.573 | 0.971 | 0.466 |
| ランナー1・3塁 | 1.904 | 1.243 | 0.538 |
| ランナー2・3塁 | 2.052 | 1.467 | 0.634 |
| ランナー満塁 | 2.417 | 1.650 | 0.815 |
これは1999年~2002年の状況別の得点期待値を集計したものです。
上記4年間で、1アウトランナー2塁の状況からは平均して0.725点が入った(逆に言えば0.725点が期待できる)、という見方をします。
この表から、プレーの前後で得点期待値がどう変わったかを見ることで、そのプレーが何点の価値があったかを見ることができます。
例えば、1アウトランナー2塁からヒットを打って1点入り、打者走者が1塁に残ったとします。
・ヒットを打つ前の得点期待値:0.725(1アウトランナー2塁)
・ヒットを打った後の得点期待値:0.573(1アウトランナー1塁)
・実際に入った得点:1点
上記よりヒットの価値は、1(実際の得点)+0.573(プレー後)-0.725(プレー前)=0.848と計算します。
打点であれば1ですが、元々ランナー2塁だったのが1塁の状態にしてしまった分、割り引かれているわけです。
もう1つ例を出すと、回の先頭バッターが2塁打を打つと、それは1.189-0.555=0.634の価値があるプレーだということです。
このように見ることで、プレーを得点への寄与に換算することができます。これを累計したものがRE24です。
ちなみに、RE24の"RE"はrun expectancy(得点期待値)の略で、24は上記の表が24マスあることに由来しているようです。
この観点を元に、(1)-(6)が何を意味するか見てみたいと思います。
(1)の打点は、打ったことによって実際に入った得点を表していますが、ランナー無から打ったホームランと、ランナー3塁からの犠牲フライが同じように1とカウントされてしまいます。チームへの得点の寄与という観点からすると、RE24のようにプレーの前後で状況がどう変わったかを見る方が適しています。
(2)の長打が少ないというのは、自身やランナーを一気に進めるバッティングが少ないため、その分RE24が上がりにくくなるわけですから、RE24の評価に反映されます。
(3)の内野安打についても、外野へのシングルヒットに比べれば塁上のランナーを進塁させる効果が少ない(例えば内野安打で1塁ランナーが3塁に進むことは稀でしょう)ため、RE24の上がり方は少なく、やはりRE24に反映されると考えられます。
一方で(4)の打率や出塁率が高ければ、チャンスを作ったりチャンスを広げたりすることが多いですからRE24を押し上げるでしょう。(5)の三振が少ないというのは、普通の凡打の場合はゴロの間にランナーが進んだりフライでタッチアップしたりといった進塁効果でRE24を上げるのに対して、三振にはほとんど進塁効果がなくRE24を上げません(むしろ下げる)から、この要素もRE24に反映されています。
(6)も自身が進塁するのですからRE24に反映されます。
要するにRE24を見ることで、(1)~(6)が得点への寄与という観点で総合的にどう見るかがわかるのです。
実際の値は、実はすでに
日本人メジャーリーガーの成績を評価する
で計算しています。
これを見ると、イチローのRE24は累積値で見ても、単位打席あたりの獲得率で見ても上位20%以内には入っているレベルであることがわかります。
つまり、(1)~(3)だけを見て「得点に貢献できていない」と批判をするというのは、的外れだということです。
批判するにしてもせいぜい、(4)~(6)が(1)~(3)によって割り引かれて、上位20%レベルに留まっている、というレベルでしょうか。
さて、RE24にも欠点はあります。
例えば、
・打席に立ったときにランナーが多い方が値が増えやすい
・RE24では点の重みが評価されない(接戦での場面と大差の場面の違いなど)
などです。特に前者は打点が持つ状況依存性と同じ欠点です。しかしながら、今回のように(1)~(6)を総合的にどう見るかというように、目的に応じて使うことは可能なのです。
欠点があるから使えない、というのではなく、適切にデータを見ていく必要があります。
これはもちろんセイバーメトリクスや野球の指標に留まらず、あらゆる統計について言えることです。
その統計が何を意味するかをよく見て考えることが重要です。