ずいぶん時間がかかってしまい申し訳ありません。やっと最後の15分をご紹介する準備ができました^^v
文中J、はペク・ジヨンさん、Yはわれらがヨンウニム、です♪
前編の訳は⇒こちら
中編の訳は⇒こちら
Y:『血の涙』ではもっとひどい経験もしましたよ。
J:どんな?
Y:<振り向く>シーン。こうしていて、振り向く。振り向く。それだけ。2秒見たら終わり。
そのシーンで、たしか45回ぐらいNGを出しました。
J:笑っちゃいけませんね、ごめんなさい。でも、振り向くだけの演技を45回もやり直したなんて!
Y:ええ、振り向くだけ。
最後の方は、他の役者もスタッフも一緒になって、どうしてそれができないのかわからないって。
こうやって、こう、振り向けばいいだけじゃないかって。ヨンウ、こうやれよって。
J:プライドが傷つきますよね。
Y:そんな中で、どんどん緊張が高まって。頑張らなきゃって思うほど首に力が入っちゃって。
自然に振り向かなきゃいけないのに。
J:こんなふうに?
Y:力むから、カッ(韓国民族衣装で両班の被る笠)が少しずつ震えるようになってしまったんです。
そのとき私がちゃんとそれを認めればよかったんですが。「カッが震えてるじゃないか」と言われて、
自分でもわかっていながら「震えてますか?そんなことないと思うんですけど」って。
J:どうしてそんな嘘を?
Y:負けん気ですよ、負けん気。自分は上手くやっているって、監督にアピールしたかったんでしょうね。
J:上手く演じ切りたい気持ちが強くて、、、震えてないですよ!って?
Y:ええ、すると監督はモニターで確認してみようって。確認するとやっぱり少し震えてて。
「この場面はラクに、自然に見えなくちゃいけないから、震えないようにやってみろ」って。
そんなふうにあからさまに指摘されると・・・
J:本当に震えちゃう?
Y:はい(笑)、あ、ごめんなさい。 もっと震えるようになってしまったんです、首にますます力が入って。
最後にはカッが完全にグラグラ揺れるくらい。
Y:とうとう監督が小道具担当のスタッフを呼んで「カッに異常があるか調べろ」とスタッフに被らせて、
「そのまま振り向いてみろ」ってやらせるんです。
J:まあ・・・みんなが見ている前で何てこと・・・
Y:スタッフがやってみせると全然震えないんですよ。すると監督は「ほら見てみろ、震えないじゃないか」
J:気が変になりそう・・・
Y:ええ、あのときは本当に、今の言葉でいえばメン崩、メンタル崩壊ですよ。
最後は「協力する」と立ったまま見守っていてくれたチャ・スンウォン先輩まで「疲れた」って座り込みました。
なんでこれができないんだって。振り向けばいいじゃないかって。そこでも40数回NGを出しました。
J:他の人もそんなふうに数十回ずつNGを出していたんですか?
他の人は2、3回でOKが出るのに自分だけ40回、50回だとたまりませんよね。
Y:何より堪えがたかったのは現場の雰囲気です。十回以上もNGが続くと、離れたところでたばこ吸ったり、
映像監督はこうやって顔をなで始めるのです。さらに回を重ねると手に力がこもっていきます。
J:ついには両手で? 帽子まで脱いで?
Y:ええ、大きくため息をつく音があちこちから聞こえてきます。
J:まあ・・・
Y:そうなるとまたメン崩が・・・(笑)
J:メン崩状態になると演技なんてできないでしょう。
Y:・・・とても、つらいです。
J:急に俳優という職業がかわいそうに思えてきました。
Y:監督はどれだけできるか見てやろう、というようにモニターを覗き込まれるし。
あの頃は本当に、生きた心地がしなかった。
J:そうだと思います。
Y:そのために『血の涙』が私にとってより思い出深くもあり、印象的な人物を作り上げられたんじゃないかと。
J:撮影現場は、パク・ヨンウさんの、個人的にはメンタル崩壊記念の歴史でもありますが、
『血の涙』がいろんな意味で、、、受賞もされたし。役柄も、すぐれた演技力も認められて、
意味深い作品ですね。
Y:ええ、感謝しています。
J:メンタル崩壊抵抗力もついたでしょうし。
Y:はい。
極端に内向的だったという幼少期。
自分だけの世界から抜け出したかったというパク・ヨンウ。
彼にとって演技は、脱出口だった。
しかし、その道は決して平たんではなかった。
私が想像していた以上に、彼は自分の選んだ道を熾烈に歩いてきたのかもしれない。
私の前ではこんなふうに、笑って聞かせてくれる話は
ともすると一人ぼっちだった幼少期より、もっと孤独な俳優としての時間を思わせる。
J:『血の涙』でそんな体験をされたのですから、次の作品選択には非常に慎重になられたのでは?
Y:ううん、当時は、たぶんこんなふうに考えていたのだと思います。
長い間映画に出演できなくて、作品も少なかったので、映画に対する欲が強かった。
『血の涙』がこうだったから、とかではなくて、単純にたくさんの作品に出なきゃって。
そのとき偶然、『甘く殺伐とした恋人』という映画が棚ぼたのように舞い込んできて・・・
J:棚ぼたのようにありがたいものじゃなかったでしょう?周囲はみんな反対してたって聞きましたよ。
Y:個人的にとても面白かったんですよ。
心配はありました。劇場公開もできないかもしれない、という作品でしたから。
監督は新人だし、非常に低予算だったし。
周囲は確かに反対してましたが、当時深く悩むことはありませんでした。
Y:一番怖いのは、人が何かを手に入れるときかもしれません。
作品がヒットして顔が売れると幸せなように見えますが、その瞬間から不幸が始まるのかもしれない。
J:いつそんなことがありましたが? 作品でいうと?
Y:一番興行成績の良かったのが『甘く、殺伐とした恋人』ですから・・・
J:そのときから不幸が始まった?
Y:そのときから・・・ さらなるヒット作を、みなが期待するようになりました。
私としては、劇場公開されただけでもありがたい作品だったんです。
なのに思いがけずヒットしたもんだから、周囲は「もっともっとヒットさせなきゃ」とか
「もっといい演技をみせてくれ」とか。
満足を知らない人たちは、そんなふうに考えがちのようです。
J:どれほどのスターであっても、いつその立場を失うかわからないでしょう。
そういうのって、とてもしんどい、辛いことではありませんか?
Y:常に私がなぐさめられる言葉ですが・・・
トム・ハンクスが『フォレストガンプ』でアカデミー賞を受賞した直後のインタビューで
「今の心境は?」と聞かれたときに 「不安だ」と答えたんです。
「何が不安なんですか?」「まだ次の作品が決まってない」
J:(笑) そんなことをおっしゃったんですか。ナイスですね。
Y:はい。
J:俳優である方にとって、とても慰めになる回答ですよね。
Y:俳優ならおそらく、みなそうなんだと思います。
J:でも、そんなこと口に出さないでしょう。
Y:まあ、そうですね。
Y:これから先も終わりなき戦いだと思っています。
だからといって、「私は完全に心を空っぽにしました。演技はとても重要ですよね」なんて返事をすれば嘘だし、
ずっとストレスは感じ続けるでしょうし。
でも、できることなら、演技を続ける間はずっと、一番重要な瞬間はいつで、そんなものに対して慢心せずに
努力を続けたい、そう思える瞬間まで続けなきゃ。
J:俳優として、ぜひ演じてみたい役柄はありますか?まだ演じたことのない役。
Y:そういう破格的な経験を人生の中でもやってみたくて演技を始めたので、
俳優なら誰でも同じ望みを持っていると思いますが、私も同じように、先輩方もおっしゃっているように
パク・ヨンウはこういうイメージだ、と思われているものを壊す役であればどんなものでも。
J:どんなものでも、とは言っても、次はぜひこんな役をやりたいっていうものがあるでしょう?
あるいは他人の映画を観ながら「ああ、こんな役を演じられたらいいのに」とか。
Y:何の事情も理由もなく・・・
事情があって悪人になった人は演じたことがありますが、
何の事情もなく、単純に血も涙もない悪人というのは演ったことがありませんので、
そんな役を一度やってみたいですね。
(ファンとしては見たくないけど by ハギ)
J:なるほど。
Y:そんな多様な役を、やってみたいです。
J:PEOPLE INSIDE に来ていただいたゲストに、必ずお訊ねする質問があります。
「成功」というものが、最近はとても画一的になってきたじゃないですか。
だから、この番組に出演していただいたみなさんに、「成功」とは何かをお訊ねしています。
パク・ヨンウさんが考える、本当の「成功」とは何だと思われますか?
Y:そんな質問に答えられるほどの人間ではありませんが、とりあえず私も「成功した」うちに入ると思っています。
ペク・ジヨン先輩とこうしてお会いできるような人間になったのですから、成功者なんですよ。
Y:この先もずっと悩み続けるのでしょうが、あらゆることに単純になれれば、
それはとても成功したことになるのじゃないでしょうか。
私がとても尊敬する人や、尊敬している言葉は、みな単純なんです。
複雑に考えて、悩んで、元の位置に戻ってみると、たいていはとても単純な論理で。
J:確かにそうですね。真理は単純です。
Y:演技に迷って先輩方に相談すると、「ただラクに笑い飛ばせよ」とか言われてやってみると
それが一番しっくりくるんですよ、実際に。
人生もそれと同じじゃないかと思います。
個人の人生でも演技でも、今日より明日、明日より来年、
私がどんどんラクに、単純になっていくことができれば、それは成功に近づいていることになると思います。
J:とても新鮮な回答をいただいた気分です。
本当にわかって核心をつかむと単純なものだという。
Y:ええ、それが成功した人の人生ではないかと。
J:ぜひ、そういう人生を築き上げながら、末永く俳優として、素敵に活動してくださることを期待します。
どうもありがとうございました。
彼に出会って、こんなことを考えた。
パク・ヨンウにとって演技とは、世間と会話する方法だった。
気に入らない自分自身のために、変化を夢見ていたパク・ヨンウ。
そんな彼が、今や千の顔を持つ俳優になり、多様な人物像を見せてくれる。
今日、私が出会ったパク・ヨンウは、また新しい変身を準備しているのだろう。
彼がこの先、みなさんに、また私に、どんなふうにアプローチしてくるか、期待される・・・
視聴はこちら