山梨県小瀬スポーツ公園陸上競技場 17,000人(新記録)
ヴァンフォーレ甲府 1-1 浦和レッドダイヤモンズ
(甲)62分 藤田健
(浦)75分 三都主アレサンドロ
甲府、ホームゲーム動員数新記録!
甲府の本拠地、小瀬スポーツ公園陸上競技場は絶好のサッカー日和に恵まれた事と、
日本代表選手など多くのスターを擁する浦和レッズを迎えたこともあってか17,000人を
動員しました。公式発表がぴったり17,000人というのもなかなか味のある発表で好感が
持てるものです。
今年遂にJ1昇格を果たした山梨県へ、熱いサポートの文化を伝えるかのように赤い服
に身をまとったサポーターが数多く駆けつけていましたね。
試合中もテレビから伝わってくるのがほとんどが浦和サポーターのコール。
早くこの凄まじいサポーターたちが海を渡ってアジアでも大暴れするのを見てみたい
です。そういう意味でも来年浦和の出場が決まっているACL(アジア・チャンピオンズ・
リーグ)が楽しみです。
とにもかくにも、新記録樹立の甲府の皆さん、おめでとうございます。
山梨県におけるJリーグの浸透、サッカー文化の浸透の為の良いきっかけになると
いいですよね。
スタミナ意識の静かな前半
前半は両チームともこの暑さを意識してなのか、予想以上に静かな立ち上がりでした。
こういう気候での消耗戦となる試合は先制したチームがかなり有利となるため、
必要以上にリスクを負った攻撃というのは避けたい所でもあります。
しかし、静かだとは言ってもバレー選手の際どいシュートや田中達也選手の鋭い
仕掛けなど得点の匂いをちらつかせる両エースの存在感も発揮されていました。
対照的だった浦和と甲府のディフェンスライン
浦和のディフェンスラインはハイラインのフラットバック。川崎戦でも徹底ができていた
ハイラインディフェンスでしたが、この試合も全体を通じてハイラインを維持することが
できていたと思います。高い位置をディフェンスが持ってくれればFWとDFが近い位置
でプレーをする事ができ、全体を間延びすることなくコンパクトにまとめる事ができます。
実際前半の浦和は多くの時間で中盤を支配していました。実際に小野・長谷部・山田・
鈴木啓太というA代表or五輪の日本代表経験者達を有する浦和のMFと甲府のMFでは
浦和の地力が1枚も2枚も上手なのは明らかで、浦和としては全体をコンパクトにして
中盤で甲府を圧倒したいというのが狙いでしたし、実際に前半における中盤は浦和の
狙い通りだったと思います。
一方、甲府は特に後半はDFラインは浦和のハイラインとは対照的にローラインの
マンマーク的なディフェンスを敷いていました。意図してそうしたのではなく、浦和の
猛攻によってずるずる下がらざるを得なかったという見方もあるかもしれませんが、
後半は終盤を除けば甲府が押し気味の時間帯が多かったですから、意図的にディフェ
ンスラインを下げたのだと思います。一見不利に見える引いたDFラインでしたが、
甲府の逆転の発想というか、奇妙な試合運びによってそれが浦和への圧力となって
いたように見えたのも事実です。
甲府の低い位置に引いたディフェンスですが、浦和の攻撃陣がフォアチェックを仕掛
けてこない位置まで引いていました。スタミナを考えてか浦和攻撃陣はセンターライン
を10mくらい超えた位置まではフォアチェックをしかけますが、それ以上は必要以上に
は深追いしてきません。
通常ですと、DFラインでボール回しをする以外の事ができない状態というネガティブ
な見方ができるかもしれませんが、この甲府に限ってはそうではありませんでした。
甲府としては中盤を浦和の屈強なMF陣に抑えられているために、中盤でボールを奪
われてカウンターを食らうのは怖く、必要以上には中盤での勝負はしたくありません。
中盤を攻略してDFラインに到達しようにも、その攻撃に対する浦和の対策は十分であり、
今季最少失点の浦和を中盤から崩すのは容易な事ではありませんでした。
そこで甲府が取った戦術は、中盤を飛び越して3トップに繋ぐというDFからのロング
パスで相手の中盤を飛び越すというものでした。その為に甲府DFはフリーにボール
を持てる低い位置まで下がり、ボールを前線に落ち着いて供給ができていたわけ
です。FWとしても、DFが余裕を持ってパスを出すために精度の高い色んなボールを
要求できる為、バレー選手をはじめとした3トップの選手達は、中盤を使えない分、
自由に、そして活発に動き回ってボールを引き出す動きをしていました。
3バックとディフェンシブミッドフィルダーを加えた3人+αで甲府の攻撃を止めたい
浦和と、中盤を飛び越して浦和の3バックに対して3トップで3対3の数的有利を引き出
したい甲府の熾烈な綱引き状態は非常に見ごたえがありました。
そして浦和のDFがその甲府の3トップに押されてラインを下げようものなら、それは
甲府にとって狙い通りで、それによってあいたスペースにそれまで抑えられていた
中盤の選手を走りこませて攻撃参加させるという浦和DFにとっても張り詰めた緊張
感のあるやり取りでしたし、少ないチャンスを作りにいく甲府FWの必死さも伝わって
きました。
この張り詰めた神経戦こそが、ディフェンダーとしてはたまらない瞬間でもあるんで
すよね。
甲府が浦和から先制点を奪う
62分になんと甲府が先制点を浦和から奪います。Jリーグ最多予算の浦和から、
Jリーグ最少予算の甲府が先制点を奪うという事で印象的なシーンだったわけで
すが、これも再三見せた甲府の奇妙な圧力の中の得点でした。
実際の得点シーンはこぼれたボールからの速攻でしたが、甲府が左サイドから
崩して浦和・堀之内選手を振り切ってクロスを上げたところに、右サイドから中央
に猛然と長い距離を走り抜けてきた藤田選手が勢いそのままにゴールネットに
ボールを突き刺しました。
上述した浦和DFと甲府FWの緊張感のある熾烈な綱引きの中で、浦和DFがずる
ずるとディフェンスラインを下げてしまった瞬間を突かれたという感じでした。
田中達也の活かし方
結果はドローでしたが、一定の評価はできると個人的には思いました。
そして結果以上に価値のある試合だと思ったのが、2トップで長期休養明けの
田中達也選手を試せた事でした。
田中達也選手の復帰と同時に怪我で欠場をしてしまったワシントン選手が不在の
状況で、田中達也選手が1トップで踏ん張らないといけないシーンがここ数試合続
きました。
しかし、この試合田中達也選手が甲府・ビジュ選手の強力なマンマークにあって
苦しい状況にあった事で田中達也選手が下がり気味になってきた為に、浦和・
ブッフバルト監督は1トップから2トップにフォーメーションを変更して、永井選手に
続いて黒部選手までも投入しました。
田中達也選手を再び高い位置に戻すためには、前線でボールをキープできる
選手が必要です。そのトップバッターが永井選手でしたが、この日その任務を見事
にやり遂げたのが黒部選手でした。
田中達也選手が活きる形は、ポストプレーヤーがDFを背負ってくれて、そのあいた
スペースに突っ込む形です。ワシントン選手がいない為に、やむを得ず1トップを張
っている状況ですが、実際は2トップが理想だと思っています。
1番手で途中交代で入った永井選手が思ったよりも機能できず、そこへ浦和は黒部
選手を投入しましたが、真ん中で踏ん張れる黒部選手のおかげで田中達也選手の
位置が高い位置に戻りました。
これによって前線でのボールキープができるようになり、中盤も徐々に押し上げて
いきます。その流れの1つで押し上げた長谷部選手からのパスで三都主選手が
同点ゴールを決めました。
田中達也選手を起用していく方法をこの数試合で模索しているような浦和・ブッフバ
ルト監督でしたが、これで1つの答えが見えたと思います。
田中達也選手は高い位置で張らせればボールを呼び込みながらシュート姿勢に
入れるうまさがあるので、強烈な武器となることは間違いないありません。
(解説の三浦ヤスさんはそれを反転力としきりに呼んでいました)
小野、長谷部、山田、ポンテといったフィニッシュに結びつく情熱的なラストパスを
危険なエリアに出すことを得意とするパサーから見たら、田中達也選手のように
少ないタッチでシュートに持っていける選手は非常にありがたい存在だと思います。
また、スペースに走りこめる選手なので、足元でボールをもらいたがるワシントン
選手のみだと全体のスピードが落ち気味で足が止まりやすい試合運びも、スペース
に走りこむ動きが1つできる事で、まわりもそれによって連動して動く事が予想でき、
最近の悪い浦和の象徴である『足が止まる』という状況も徐々に解消されてくるの
ではないかと思っています。
いずれにしても、ワシントン、ポンテと高い位置でボールをキープできる選手たちが
帰ってきたとき、浦和がどのような進化を遂げるのか、非常に楽しみな所です。
ドローの中で得た確信
甲府のような前懸かりで攻撃的なチームを相手にした場合の対策は、まずは攻める
時間を増やすことです。攻める時間を相手に長くあげさせれば怒涛の波状攻撃となって
調子にのらせて手がつけられなくなります。
特に甲府は攻めの回数を増やすことでリズムをとるチームですから、予測できない
爆発力を出してくる事があります。
先制されたときに解説の三浦ヤスさんが甲府はもっと点を取ると言っていましたが、あれ
は甲府のその後の勢いを予測したんだと思います。時間帯としても先制するにはとても
良い時間でしたし、浦和DF陣を切り崩してのゴールでしたから勢いにのって当然の展開
と雰囲気でした。
しかし、結果的にそれ以後は得点を許さず、1点しか与えなかったのはその後の浦和が
前線でキープをすることで中盤とDFを高い位置にもってこさせて中盤をコンパクトにして
ポゼッションをあげて甲府の勢いを落ち着かせることができたからだと思います。
その点でも甲府対策として手をうってきたブッフバルト監督の采配はお見事だったと思い
ますし、それに応えた黒部選手も賞賛に値すると思います。
攻撃的なチームを迎えた場合、いかに前線でキープしてポゼッションをあげることがで
きるか。この試合で、その練習と方向性の検討ができ、一定の結果を得る事ができた事
は浦和にとって後半戦に向けての大きな確信になったのではないでしょうか。
甲府としても、J1最少失点の浦和を相手に先制してドローに持ち込めたことは後半戦に
向けて非常に大きな自信にもなったはずです。
ドローとなった事で、浦和は勝点2を失ったと捉える事もできますが、得たものはその
勝点2以上の大きさだと思います。
日本サッカーはゴールデンゴール方式での生きるか死ぬかというスタイルから入って
きている為、アウエーでのドローを喜ぶ文化がなかなか浸透しきれなく、ドローをなかなか
うれしく思えないのはしょうがありませんが、まだまだこの時期で勝点2を嘆く必要はあり
ません。これは他のチームにも言えることです。
甲府は浦和相手に先制して、ドローに持ち込めた事を自信とし、浦和としても後半戦に
むけて得た大きな攻めのオプションの誕生を喜んだ、非常に興味深い、そして印象的な
ゲームだったと思いました。





