家庭や事業所から排出される下水には、燃料に使える成分が含まれている。固定価格買い取り制度(FIT)で、捨てられていたエネルギーを活用する動きが加速している。
技術は数十年前から整っているのに、十分に生かされていない国産エネルギーがある。「下水汚泥」だ。
下水汚泥は、家庭や事業所などからの排水(下水)の汚れを取り出した物だ。炭素や水素からなる有機物が含まれている。下水処理場で汚泥を取り出せば、燃料に変えられる。燃焼しても、二酸化炭素(CO2)を排出しないとみなされるバイオマスでもある。
一般的に処理場では汚泥を焼却した後、灰を最終処分場に埋め立てたり、セメントなどに再利用したりしてきた。そんな中、数十年前から、一部の処理場で汚泥を発電に使うための技術が導入され始めた。埋め立てる汚泥の量を減らすため「消化槽」と呼ぶタンクで汚泥を発酵させると、メタンなどが副生物として採れる。
この「消化ガス」がガスエンジン発電の燃料になる。ただし、発電まで行うケースは主流ではなく、ガスを燃焼させるだけで捨てることが多い。2012年度に回収された汚泥のうち、エネルギーとして使われたのは13.3%にとどまる。
■下水処理場でFIT始まる
しかし、ここにきて再生可能エネルギー電力の固定価格買い取り制度が汚泥発電に弾みをつけている。消化ガスで発電した電気を1kWh当たり税込み40.95円で買い取ることを電力会社に義務付けた。
消化ガス発生量は、処理場周辺の人口が短期的に増減しない限り年間を通じて安定している。一定出力で日夜、発電できるベース電源になる。
上下水道向けなど環境機器メーカーの月島機械は、全国の下水処理場で発電設備の導入を手がけている。FITを利用する事業は現在までに8地域、合計約7000kWに及び、このうち3事業が売電を始めた。

月島機械が青森市の下水処理場内で導入を進める消化ガス発電設備の完成予想図
皮切りとなった長崎県大村市の大村浄水管理センターでは2014年、10基の25kW型マイクロエンジンが発電し始めた。大阪市の4つの処理場では、大阪ガス子会社OGCTS(大阪市)などと協力して合計約4000kWの発電設備を導入する計画だ。
■300カ所で消化槽を導入
下水汚泥を使った発電の仕組みはこうだ。下水処理場に流入した下水を「沈澱(ちんでん)池」などの設備で汚泥と水に分離する。水は微生物でさらに浄化し、沈殿による分離を重ねて塩素滅菌した後、海や川へ放流する。
沈殿や浄化の過程で取り出した汚泥は、消化槽でメタン発酵させる。発生した消化ガスは、金属を傷める原因となる硫化水素などを取り除いてホルダーに貯める。
月島機械はガスホルダーで国内シェア1位。他にも汚泥処理の関連設備を処理場に提供してきた実績を生かす。同社の提案は、処理場の負担を軽くする「民設民営方式」だ。自治体などの下水道管理組織から、月島機械が処理場内の遊休地を借り上げ、消化ガスを買い取る。月島機械は場内に自前で発電機を設置し、売電収入を得て、土地賃借料とガス代を管理者に払う。FIT制度の申請や、建設や設備の維持管理、運営についても、コストも含めて負担する。
FIT施行前も電力会社が再エネを買い取る「RPS法」があった。だが、当時の買い取り価格は1kWh当たり十数円で、設備投資を回収しづらかったという。20年にわたって買い取るFITは、投資回収を可能にした。
月島機械執行役員で水環境事業本部の福沢義之・新事業推進部長は、「汚泥エネルギーを使いこなすのに必要な技術やインフラは既に整っていた。FITという出口が用意され、力を発揮しやすくなった」と話す。
全国に約2000カ所ある処理場のうち、消化槽を導入しているのは約300カ所。消化ガス発生量と事業の採算性を考慮しながら「今後、2~3年で十数件の案件獲得を目指す」と福沢部長は話す。続けて、「食品廃棄物などを消化槽に投入し、地域の未利用資源を生かしながらガス発生量を増やす提案もしたい」と話す。
ガスエンジンと張り合うのが、産業用燃料電池である。日本ガイシと富士電機の水環境事業子会社が合併したメタウォーターは、富士電機製のリン酸形燃料電池を生かしてFIT事業を展開している。

メタウォーターは大阪市の下水処理場で燃料電池による発電と消化ガスの高効率製造に関する実証事業を実施した
消化ガスを燃料電池に投入してメタンから水素を取り出し、酸素と水素の化学反応を利用して発電する。
燃料電池は、ガスエンジンと比べて高価だ。しかし発電時にエンジンの回転による振動がなく静かな上、発電効率が約40%と高い。消化ガスの量が同じなら発電量が大きくなり、投資回収を早められる。
■メタンはもっと取り出せる
2002年から全国6カ所の処理場などに合計2300kWの燃料電池を導入した。このうち3カ所で、FIT制度を利用して売電している。
「下水処理場をエネルギー回収基地にしたい」と、プラントエンジニアリング事業本部新事業技術部の宮田篤担当部長は話す。同社は燃料電池の導入に加え、消化ガス発生量を、例えば2倍にも増やせる下水汚泥処理技術の提案に力を入れている。
下水処理場では下水に含まれる汚泥の沈殿を2回行う。同社は汚泥のろ過を効率化させ、最初の沈殿での汚泥回収量を約5割増やせる「超高効率固液分離技術」を実用化した。独自開発によるプラスチック製の特殊なろ過材を使う。後工程の微生物分解に回る水の中の汚泥が減るため、微生物に空気を送る動力を減らせ、省エネにもなる。
加えて消化槽でも、メタン発生量を増やす技術を採用した。不織布を使った部材を従来よりも高温の槽内に設置し、微生物を活動しやすくした。一般の消化槽ならば汚泥の発酵に20日かかるところを5日に短縮した上、メタン回収量を引き上げた。
国土交通省による下水道革新的技術実証事業(B-DASH)の2011年度事業として、メタウォーターは新型の固液分離技術と消化槽、消化ガスと都市ガスを併用できるリン酸形燃料電池を生かした実証事業を、大阪市の中浜下水処理場で実施した。技術の販売も始めている。
「燃料電池は発電効率が高い分、買い取り期間を通じてガスエンジンよりも有利になる。ガス増量技術を併用できるケースでは、効果がさらに高まる」と同社R&Dセンター基盤事業開発部資源エネルギー開発グループの清水康次担当課長は話す。
■280万台の燃料電池車を充てん可能
発電だけではない。福岡市では、汚泥由来の水素で、トヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」が走る。
「汚泥から99.999%以上と高純度の水素を造れる」と、三菱化工機・水素ステーション部ハイジェイアグループの宮島秀樹部長代理は話す。
同社は1960年代に石油精製プラント向けの大規模な水素製造装置を開発し、水素ステーション向けの小規模装置にまで用途を広げている。水蒸気改質技術を用いて、LP(液化石油)ガスや都市ガスといった原料に含まれる炭素を高温の水蒸気と反応させて、水素を取り出す。

三菱化工機などが福岡市の下水処理場で実証事業を実施している水素ステーション
しかし「消化ガスには、化石燃料とは異なり、汚泥由来の成分が混入する。高い効率で除去するシステムを実証した」と宮島部長代理は強調する。
2014年度にB-DASH事業の1つとして福岡市や九州大学、豊田通商との共同研究体制の下、福岡市の中部水処理センターに水素供給システムを設置した。水蒸気改質器を備えた水素製造装置に加え、汚泥由来の異物を取り除く設備も組み込んだ。
洗髪料に含まれる成分由来のシロキサンを除去する装置や、メタン以外のガスを取り除く膜分離装置で、水素製造装置に投入前のガスのメタン濃度を約92%に高めた。これにより高い純度で水素を取り出せ、燃料電池車にも支障が無いと実証した。
「化石燃料を原料に使うケースと比べれば、水素製造コストを引き下げられる」と宮島部長代理は意気込む。コストを抑えるため、水蒸気改質器の排熱を回収して使い回すなど、システム全体のエネルギー効率にもこだわった。燃料電池車の普及展開に足並みをそろえ、大都市圏の下水処理場に、安価な水素ステーションが登場しそうだ。
燃料電池車向けの燃料への利用は、世界でも他に例を見ない。しかし、要素技術は既に確立され、実用されていた。ガスエンジン発電や燃料電池も同じだ。既に技術はあるのだから、利用しない手はない。国交省は、1年で回収できる、燃料として未利用の汚泥をフル活用すれば、発電ならば88万戸の住宅需要を賄えると見積もる。
一方、政府の再エネ拡大方針にはかげりが見え始めた。安定供給が見込めるという特徴を踏まえれば、国は汚泥エネルギーを使いやすくする体制整備を怠るべきではないだろう。
(日経エコロジー 馬場未希)
[日経エコロジー2015年8月号の記事を再構成]
バイオマス技術はここ数年で高度に発達してきています。原発を必要としない技術の多くは原発マフィアによって潰されてきていましたが、最近はちょっと事情が変わってきたようです。
多くの自然エネルギー企業が表舞台に出てくるようになりました。
原発なんぞどうして必要なのか?
石油なぞいりませぬ!
自分達の利権を守るために本当に人類、いや地球にとって必要な技術を潰すマフィアたちが沈んでいくのが目に見て取れます。