店の中で圭吾が話してくれたこと。別に菜々がいたって話せばいいことを何故か小百合は口にしなかった。後、孝之とバイトチェンジをすることも。
家に帰ってからゆっくりとゆいに話したい。圭吾と何を話していたのか気になるゆいに気付かない小百合は、孝之が来るまでスマホのカレンダーを見ていた。
『バイトチェンジ返事しちゃったけど、来週一週間で部屋の荷物片付くかな』
「小百合?どしたの?」
「ん?ううん。バイト・・・」
小百合が言いかけた時、バイトを上がった孝之が走って来た。
孝之が乗り込み、これからゆいたち御用達の慎二がバイトしている中華料理屋へ向かう。
このメンツで食べに行くのは初めてで天津飯を食べに行くだけなのにみんなしてワクワク興奮しうるさいくらいに喋り出す。
孝之は、菜々がここまで遅くなった理由が聞きたい。まさかスタジオの中で大揉めだったことなど知る由もない。
「今日は撮影長かったの?」
「うん。そうなんだけどね・・・」
ゆい自身のことなので菜々は言いにくい。見かねたゆいは、撮り直しがあったからとだけを話し、細かいことは菜々から聞いてとだけを話した。
「私から話してもいいの?神崎妖花のことも?」
「うん。着いたよ」
ゆい自身のことだが、自分の口から言いたくもないと菜々には悪いと思うが代わりに話してもらうことにした。
店内は9時半でも客の入りは多く、新規客の気配を感じた慎二が洗い場から出てきては大きな声でいらっしゃいませ!と叫んだ。
いきなり来たゆいたちを見て驚くが、何だか嬉しそうだった。
「この4人珍しいね。ご注文は?」
注文はゆいお任せで、天津飯4つと春巻きを2皿。そして小百合がどうしても食べたかったゴマ団子を注文。
「小百合、そんなに食べたかったの?」
「行くって決まってから、絶対に食べようと思って。でも今日は疲れた」
小百合はそう言いながら、バイト中の慎二を目で追いポロっと口にする。
「ね~慎二君ってさ。やっぱカッコいいよね。性格もいいし」
「うん、俺もそう思うけど小百合ちゃん?ゆいさん・・・」
もちろん、そんな誤解されるような意味はない。これっぽちもだ。
今日のゼミで春香が慎二のことをずっと見ていたことを思い出したから。
しかし、誰がどう見てもカッコいいことは事実で、ユイと付き合う前はいろんな女子から寄ってくるくらいだったから、小百合から見れば『でしょうね?』という感じだろう。小百合が今日のゼミのことを話しているところに、慎二が天津飯と春巻きを持ってきた。
「お待たせしました♪天津飯と春巻きです。小百合ちゃん、ゴマ団子は食後でいい?」
「いい♪」
「ごゆっくりぃ~」
途中で止まった慎二の話。これ以上は話が膨らまず目の前の天津飯に集中した。今日も安定の美味しさである。菜々も孝之も美味しいと言いながら黙々と食べていた。
ゆいは、話が止まった慎二のことが気になる。ゼミの話は途中まで聞いたが小百合が慎二のことをカッコいいと言うなんて初めてのことだったから。
ただ、カッコいいなどと思うことは自由で、思うことまでを束縛してはいけない。しかし小百合には本当に他意はなく、春香の一件がなければ口にしなかった一言だ。
「他の女の子たちは?」
「興味なしって感じ。彼氏持ちの子は論外だしね。私もそうだけど」
小百合のその一言でゆいはやっと天津飯の味が美味しく感じた。