ゆいの行く道は | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

本来ならお互い100%の信頼を持って撮るはずだった写真集撮影。こんなにも失礼極まりない相手は初めてで、ゆいの説得でやっと向き合ってくれたかと思えば半分で、就いていたメイクさんやスタイリストさんの話でやっと気持ちを切り替えてくれた撮影ももう終盤。いい加減ゆいがキレそうだ。

撮り直しの衣装の撮影が終わり、小百合と話していた先生はモニターを見ているゆいのところへ行った。ゆいに謝罪に来ていた事務所の部長も見守る中、先生は腕を組み、時には写真をスクロールしながら唸っていた。

しかし先生は何も言わず、『次は?』とまるでこの写真に興味がないような口ぶりだった。

先生の態度に驚いたのはゆいよりも小百合だった。今さっきまでゆいのことを信念を曲げない人だと褒めていたのに。どういうことなのかと斜からゆいの顔を覗き込むが、特に意見を聞くこともなく次の衣装の話をすると先生は数回ほど頷き、また小百合のところへ戻って来た。

小百合は先生に椅子を差し出すと、『ありがと♪』と言って浅く座り足と腕を同時に組んではじっとモニターを見ていた。

「小百合ちゃ~ん」

さちに呼ばれ、小道具のセットをそろえた。軽くシャボン玉を飛ばすと言う。ゆいからページ数にして2~3ページ分ほどになると言われ、大まかな表情が撮れたら止めるからと、用意されたシャボン玉の出し方を教えてくれた。

「ここを押せば・・・こんな感じに出るからゆっくりと上に向かって飛ばして・・・そう!そんな感じで」

「はいっ!」

振り返ると先生はもういなかった。どうして先生からの意見がなかったのかをゆいに聞いたが、ゆいはたった一言、『無かったからじゃない?』とだけ。

「小百合ちゃん、答えは簡単。それはゆいちゃんに一任してるから。任せてる人にアドバイスなんてしない。それが先生」

さちからそう聞かされた小百合は、大きく頷き納得する。

ただ、全くないと言えばそうでもない。撮影が全て終わり、改めてチェックする時は何某かの意見はもらえるとゆいは言った。

「ってことで。次の衣装が終わったら休憩に入るから。それまでよろしく」

「はいっ!」

小百合はもう一度大きな返事で持ち場に着いた。

 

何も言わなかった先生。今は事務室で菜々とあきの3人で話をしていた。内容はもちろん卓人のこと。そして今さっき見てきたゆいの写真のこと。

「今度写真集の依頼が来た時は、誰に撮って欲しいのか明確にしなきゃならないわね」

「やっぱ無理そう?ゆいちゃんの話で改心したんじゃないの?」

「表面上はね。ゆいさんの写真もバッチリ。あんな逆境の中でよく頑張ったと思うわよ。私だったらやってられるか!って降りるわよ。だからね・・・」

「母さん、現場見に行ってもいい?」

「いいわよ。菜々ちゃんも一緒に見てきなさい。私、ここで電話番してるから」

更年期で身体が怠い先生は、小さなソファーにもたれては、この事務室のフロアを見渡していた。そしてゆいと初めて会った時のことを思い出していた。

ゆいの才能を見抜いて佐伯さんから引き抜いたが、こんなにも早く成長するとは思ってもなかった。本当ならもう独立しても十分やっていける実力を持っている。分かっているが、先生はどうしてもゆいを離したくない。このスタジオを盛り上げるためにもゆいにはここにいてほしいと願っていた。