言わぬが花とはこのこと | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

いつもなら嬉しいロケのお誘いも今回ばかりは断りたかった。でももし断ったら次はないんだろうと勝手に思い、小百合はその場で出ると伝えた。

ゆいには正直な気持ちをLINEで送り、土曜日に出来ない分をやってしまおうと、ゆいから仕事を上がった連絡が来るまで少しでも先に進めたい思いでペンを走らせた。

スタジオでは、機材の片付けを今日も菜々にお願いし、ゆいはスチール写真のチェック。膨大な枚数の写真をモニターでゆっくりとスクロール。横で先生が覗きに来ては幾度となく褒める。本当にこれでいいんだろうかと、今日の撮影を振り返った。

「そうそう。初の写真集にはインパクトが欲しい。ちょっと素が見えるような笑顔とか。まだあれだけど、このシーンは表紙にしてもいいくらいよ」

まだあれというのは、まだ撮影は終わってないけどの『あれ』なのか、それとも出来はまだまだの『あれ』なのか。その差は大きい。どっちですか?などと聞く勇気もないゆいは、ありがとうございます!とだけ伝えた。

 

ゆいはチェックしながら思い出す、由紀が言ったあの舌打ちのこと。どのシーンを撮っている時だったのか由紀に来てもらい探してもらった。

「いいよ・・・えっとね。確かね、サングラスのとこ。あっ、このポージングを指示した時。これ。何が嫌で舌打ちしたのか私には分からない。実際にしてたのかと言われると自信はないけど、ゆいちゃんが先に話してくれたから、やっぱりなのかなって」

気付いたのはその一回だけだと言い、一緒になって腕を組んだ。

明日、一度卓人に真意を確かめようと思ったが、ゆいはこのまま気付かない振りをしようと決めた。言ってしまったら気持ちも引いてしまいそうだから。それは卓人ではなく、ゆいが。どうしても目に余るようならその時は。

「その方が賢明かも。じゃ~私、先に上がるね」

「お疲れ様でした!今日はありがとうございました」

 

由紀と入れ違いで菜々がゆいのところへ来ては、片付けが終わったことを報告した。菜々は昼の小百合のことが気になっていて、ゆいに話したかった。でもユイは小百合がゆいさんに話すようにと言った手前、菜々が話すわけにはいかない。心配だが菜々には一切関係がないこと。二人のことに口出しは無用だ。そう思っていつもの掃除を始めようとした時、ゆいから小百合の様子を聞かれた。

「さゆっち?オムライスガッツリ食べてたけど。花岡君のこと?」

「いや・・・ごめんね。何でもない」

ゆいは掃除に行った菜々を振り返ることなくモニターを見ながら小百合のことを考えていた。

もう一度手紙を読みたい。小百合が思う何かが見つかるのではと、カバンから財布を探しもう一度広げた。

『やっぱり無理してるのかな』

小百合にとって今回の課題は誤算だった。これさえなければ引っ越しの準備に集中できるのにそこまで手が回らない。ゆいも卓人の写真集撮影がなければ、小百合同様引っ越しのことだけが考えられた。決まったのは写真集の方が先だが、大きなことが重なるとしんどい。これでは二人共倒れだ。

ゆいは勝手に晩ご飯を決め、小百合にLINEを送った。

小百合はもう終わったのかとLINEを読めば、今日の晩ご飯のことが一言だけ。

『今日の夜は寿司食いたい!スシロー行こう。なんならくら寿司でも。私がごちそうするから』

「寿司?」

もちろん小百合はOKの返事を送った。