これが現実だということ | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

ゆいは危機感など感じていない。現にご指名の案件は頂いているし、この先もスケジュールは詰まっているし、病み上がりの瞳はともかく、由紀もさちもこの先の依頼も入っている。カメラマンは五万といる。別のカメラマンに替わることなどいくらでもあることだ。ただ、こんなことを言っては何だが、自分とタイプが似たカメラマンにシフトチェンジしたことが解せない。

その神崎妖花。理由は分からないが本名ではない。カメラマンとして活動するときの名だ。よく歌手が作詞をする時に名を変える人がいるが、そんな感じだろう。それぞれ名前に理由がありカッコいいと思うが、神崎の名前に対しては何とも感じない。真似をしたいとも思わない。

なんてことをさちには言えず、面識があるとだけ伝えた。もちろん、本当に面識だけで、名刺交換した程度。何かの会合で会っただけで名前すら忘れていた。

「さっちゃん、その神崎さんって人が専属なの?」

「そうじゃないとは言ってたけど、ゆいちゃんのこと知ってるっぽくって。

以前はゆいちゃんが担当だったことを聞いたらしくって・・・」

俊の感想としては、ゆいと少々似てる部分があるという。見た目もそうだが積極的にアイデアを出してくれる。しかしゆいと違うのは少々我が強く意にそぐわないと機嫌が悪くなること。

「よく担当になるの?」

「撮影自体数はないけど、ゆいちゃんが受け持った5社のうち3社がそうだって。ね~なんか嫌」

「嫌って、ゆいちゃんが何度も撮ってた時はそんなこと言ってなかったじゃん」

「だってゆいちゃんだもん。私と俊君をくっ付けてくれたのもゆいちゃんだし」

それは間違いないが、凄い責任を背負われたような気がして返事がしにくい。

「俊さんは私と小百合のこと知ってるし。さっちゃん、気にしないこと」

ゆい自身、割とフランクな方だと思っている。もちろん、今は!の話で、以前の自分は前に出る方ではなかったし、意見さえ口には出来なかった。今こうして積極的に話せるようになったのは小百合のおかげ。小百合が本気で自分にぶつかって来てくれたから。一人の存在で自分自身がこんなにも変われるなんて、ゆいは想像もしてなかったこと。

そのおかげでプロジェクトに参加させてもらえたり、指名を受けたり。

 

ゆいが運転しながら小百合のことを考えている頃、小百合は家を出て坂道を下りていた。今日は行きも帰りもバス。そして講義が終わったらスーパーへ直行。帰りが一人の時くらい駅まで寄り道と思いたいが、今はそんな息抜きも出来ない。ストレスも溜まるが、多分ゆいはもっと出来ないだろう。小百合は講義さえ出れば後は自由の身。時間が無いとは言っても自由に時間が使える。

でもゆいはそんなわけにはいかない。ゆいの仕事には定時がないのだから。

「私もスタジオに就職決めたら、帰りに~♪なんて出来なくなるのかな」

小百合がスタジオに籍を置いた年、帰りに寄り道どころか家から一歩も出られない日がやって来る。その時に直面した時、小百合はどう思うだろう。

 

今日のバス停は長蛇の列。ここまで長い列は久しぶりだ。授業には間に合うと思うが、待ってくれてるユイたちには遅れるとLINE。そしていつか読んでくれると思いながらゆいにもLINEを送った。

「今、どこ走ってるのかな。8時に現地って言ってたからもうそろそろ着いたかな。私も行きたかった。ゆいは中退してまでこの世界に飛び込んだんだよなぁ。凄い勇気と覚悟なんだよな」

いくらアシスタントの仕事にやりがいを持っていても、今の小百合にゆいと同じ勇気は・・・ない。