人それぞれ金銭感覚は違う。普段使いの時計に5万円を出すことが贅沢なのか、そんなもんなのか。自分で考え抜いて自分が働いて買った物だから自慢したっていい。でも小百合は気心知れた仲でも言えなかった。
袖口から見えた時計。ユイは見つけ話を振ってきたが、もしかしたらそのことが鼻につくと思われるのも、いい気はしない。値段を聞かれたら答えたかもしれないが特に聞かれることはなかったので、小百合はそのまま話を引っ越しのことにすり替えた。
ゆいは差し入れで頂いたお弁当で休憩。自分のデスクに座り、スマホ片手に箸でご飯をつまんだ。
小百合に転送してもらった部屋を見渡す動画。今のゆいの休憩はしばらくの間この動画で過ごす。
もちろん、どこに何を置こうかだ。小百合と二人で決めるが一応ゆいの案としてざっくり考えておいた方が小百合に話しやすい。
今日のお弁当にはシイタケが入っていない。安心して食べていると、やっぱりというか事前告知通り健斗からLINEが入った。
ゆいはちいさな溜息を吐きながら開くと、それは他愛もない、目くじらを立てるほどのことではなかった。
『おはよ。昨日卓人から撮影初日が終わったってLINEが来たから。引き受けてくれてありがとう。小百合ちゃん元気?あっ!これは社交辞令だからね。
ゆいちゃんといえば小百合ちゃんだからってことで!』
健斗は映のことは何も言わなかったが、映から健斗のことを信じてもいいのかとLINEが来た。二人の間に何があったのか予測もつかない。
『もしかして映ちゃん、健斗のこと好きになったとか』
それは構わない。健斗は性格もいいし真面目だし。ただ女問題まではゆいの知るところではない。そこが一番肝心なところだが。
ゆいはそう思っていたが、根はもっと深いところにあった。
小百合は久しぶりの学食に久しぶりのハンバーガーで心が満たされる。昨日菜々とは話をしたが、ユイとは3日ぶり。なので小百合はユイの話を聞きたい。それでなくてもこの頃会っても全くと言っていいほど話が聞けてない。
「ユイちゃん、いつだったか慎二君とスカイツリー行ってきたんだって?どうだった?私まだ行ったことがなくてさ」
やっぱり話したかったのか、チケットを買うところから話してくれた。
一度でいいから行きたい小百合は身を乗り出して話を聞いていた。
「ヤバい!もう時間じゃん。ユイちゃん、続きは明日。まだ写真見せてもらってないから明日絶対ね!」
「さゆっち、今日はスタジオ休みなんだよね?」
「今週全部お休み。わけわかんない韓国語の課題やっちゃわないと、引っ越しの準備できないからさ。ってことでまた明日ね~♪」
ユイたちと別れた小百合は、この後いつものテラスへ行き、今日はカフェラテを飲みながらゆいからのLINEをもう一度読む。
そしてソワソワ❤しながら返事を送った。
数時間後に逢えることは分かっているが、ゆいにLINEの文章を作ってる時間が小百合にとっての癒しの時間なので返事は送りたい。そしてゆいから返事が来れば尚嬉しい。でもそれは望まない。仕事中だって分かってるから。何事も欲張っちゃダメ。
「もう後半の撮影始まってる時間だよね。見に行きたい。でも今日は時間ないし。でも見に行きたいし」
見に行くきっかけを探すが何もない。
「今回は我慢すっか」
重たい腰を上げ、飲んだカップをゴミ箱に捨てるとゆいから返事が入った。
『撮影は順調。今衣装チェンジ。いい感じに進んでるから今日は少し早く終われそうです』
愛しのゆいからお返事が❤これで小百合も後半の授業が頑張れる。