ちょっとの休憩くらいどんな話をしたって構わない。っというわけではない。周りは休憩など取れない中次の撮影に追われているのに自分たちは休ませてくれた。その辺の配慮はあってしかるべきだった。そんなことは小百合が一番分かってるはずだったのに、菜々と一緒になって声を掛けてくれたイケメンに浮かれていてはゆいに叱られても仕方がない。とはいえ、ゆいも少なからず私的感情が少しだけ見え隠れ。イケメンにヘラヘラしていてはゆいだって面白くない。ゆいに叱られた小百合、菜々も一緒に叱られてはゆいのそんな気持ちなど気付かない。
前半最後のシーンはキッチンで料理をするシーン。キッチン台にはパンケーキの材料が並んでいる。見栄えが欲しいのか材料のほとんどは外国製で英語で書かれている。
別に料理などすることはなく、エプロンをして予めフライパンに乗っているパンケーキを焼く『体』を撮る。ボウルに入ったホイップを舐めてみたり。
最終的にはそれらを卓人に完成させ、食べてもらう。そんな進行で撮影をする予定。
ライトは固定なので小百合も菜々も待機。後ろでゆいがカメラを構える姿を見ていた。
「道具は自由に使ってもいいよ」
「僕、パンケーキよく作るんで、めっちゃ上手ですよ♪せっかくなんでお昼のおやつを兼ねてみんな分も作りましょうか?」
作るのはいいが、結構な枚数を作るならライトが汚れるし、万が一ってこともある。小百合と菜々にはライトを遠ざけてもらい、明るさを調節させた。
「うん、それくらいがベスト!ありがと!じゃ~スタートします!卓人さん、火傷には気を付けて!よろしくお願いします!」
スタッフさんが足りない分の材料を近くのスーパーへ買い出しに行く間に撮影を始めた。
和気あいあいと進む中、一区切りつくと卓人は本当にパンケーキを作り始めた。よく作ると言ったが見て分かるくらいに手際がいい。その姿もゆいはカメラに収めるが、離れて見ていた小百合と同じことを思っていた。
『最近食べてないなぁ。お願いしたら作ってくれるかな。ってか家にパンケーキの粉ってあったかな?』
そんなことを思っていても集中しなきゃいけないのに、小百合には注意した手前聞けるはずがない。
「誰かぁ生クリームをホイップしてくれない?」
卓人に言われ、そばへ行きたい女子ほぼ全員が身を乗り出した。さすがに小百合は手を上げず、これから面白くなるこの雰囲気を感じた。
ゆいは楽しんで作っている卓人を瞬間逃さず撮りまくるが、暑いのか汗だく。腕も上がらないほどにTシャツがベタベタになり、小百合にタオルをもらう。
「どしたの!すっごい汗じゃん。Tシャツの替え持ってきてるから今のうちに着替えてきな」
「えっ?持ってきたの?」
小百合はバッグの中からシャツとタオル、着替えを入れるレジ袋を渡しトイレに行かせた。
「ありがと!」
女子スタッフがホイップでキャーキャー言ってる中、ゆいは急いでトイレで着替え、スッキリした顔で戻ってくると小百合は何事もなかったように受け取りカバンに入れた。
「こんなこともあるだろうって思ってさ。シャツもタオルもまだあるから」
「ありがと!さっぱりした」
ゆいがまだ何か言いたそうに口を開けた時、担当さんからこのまま昼休憩に入ろうかと相談してきた。
「葉山さんがよろしければ卓人君にはこのまま作ってもらいながら、みんなで休憩時間を過ごそうかと思いまして」
「いいですね♪ここのカットは撮り終えたのでそうしましょう」
ゆいは小百合と菜々に話し、やっと休憩をもらった。