ゆいの檄から始まった撮影。それに応えるかのようにカッコよすぎるポージングでキメる卓人。大きなモニターに映る姿に担当たちは満足そうに見つめるが、それでもゆいはスタイルを細かく説明に納得するまで何度も撮っていた。
中庭のシーンが終わると、次はキッチンのシーン。料理をするカットを撮るが着替えと調理台のセッティング中、ゆいは小百合と菜々にしばらく休憩を取ってもらう。
「ゆいは?」
「私は次の打ち合わせがあるから。始まる頃声を掛けるから」
小百合は菜々と使っていたライトなどを次の現場に運んだ。明るさの調整をした後、離れたところでしゃがみ、しばしの休息。
「さゆっち、卓人ってテレビで見る以上にカッコいいね。近くに来た時すっごい良い匂いがしたけど、何の香水だろう?」
「してたね。それにしても、今日のスタッフさんたちもイケメンばっかじゃん」
「どこ見てんのよ。否定はしないけど」
二人して誰がいいとか、どうでもいい話をしていると、そのイケメンの一人が小百合たちに声を掛けてきた。
座っていた二人はいきなり立ち上がり挨拶。いきなりのことに小百合は声が上ずった。
何だろうと話を聞けば、以前砂浜のロケで小百合と菜々が来ていた時、そこにスタッフとして就いていたと言う。それは菜々が初めて就いた現場で、小百合が一生懸命教えていたところを見ていたらしい。一生懸命過ぎたので覚えていたと、爽やかな笑顔で話してくれた。
「私たち大学生なので現場に入るのは今日だけなんです」
「えっ?そうなの?あまりにも手順が慣れてるからもう長いのかと思ってました」
小百合と菜々はそれぞれ自己紹介し、小百合はゆいの妹だと話した。
案の定驚かれ、それがどんな意味なのか分からないが適当に流すと、ゆいが走って来た。
「撮影再開するから。ん?」
小百合も菜々も、明らかに照れた顔をしている。何て顔してんだよ!と突っ込みたい気持ちで小百合の話を聞き丁重に挨拶。
「あ~夏美さんの由比ヶ浜のロケでしたね。その節はお世話になりました。この子たちは大事な初日にこそ頼もしい二人です♪」
と言って二人を次の現場へ行かせた。
「葉山さんの妹さんだったんですね。でも凄いっすね。今まで見てきたカメアシの中でいっちばん動いてるなって、あんなちっちゃな体で」
「この仕事が大好きみたいで。至らない点もありますが今日は二人のこともよろしくお願いします」
小百合は現場でゆいが来るのを待っているが、時間になっても来ない。開始時間はまだなので焦ってはいないが探しに行くと、ゆいはまだそのイケメンと話をしていた。小百合にはさっさと現場へ行かせたくせに自分はイケメンと喋ってるってどういうこと!と思いながら、今度は小百合が呼びに来た。
ゆいは一礼して小百合のところへ行くと『どした?』と聞いた。
「どうしたも何も。全然来ないから。っていうかさ、どういうこと?ゆいだけズルい!」
「だって小百合がニヤニヤしてたから。だから現場へ行かせた。悪い?」
ヤバい!今のゆいの言い方完全に怒ってる。どんな意味で怒っているのか小百合は容易に察する。今日は撮影初日の大事な日。浮かれていてはいけないのだ。初日にこんなんではいい作品は出来ない。それくらいに撮影の初日は大事な日なのだ。分かっていたはずなのに。
「ごめん!マジごめん!」
「分かればいい。このシーンが終わったらお昼に入るから。しっかりと頼むよ」
現場に入った小百合はゆいに怒られたことを菜々に話すと、ゆいは菜々にも一言注意をし、軽く背中を叩いた。