写真集の撮影初日。今日以降しばらく現場には入らない小百合は気合が漲る。最初は理由が分からなかったが、詳しく聞いたゆいは今日の撮影をより良い時間にしたいと一緒に気合を入れる。
10月のこの時季が一番過ごしやすい。でも撮影中は動き回るのでやっぱり汗だくになる。小百合のバッグには着替えのTシャツとタオルが数枚入っていた。もちろん、この着替えはゆいのシャツ。もう一度確認し戸締りを確認した。
「・・・よしっ!OK。いいよ。行こう」
今日も玄関でねぎらいの一言とチューをして家を出た。
今回の撮影で小百合が気になることが一つだけある。それは裸。それも男性写真集には必ずと言っていいほど掲載される『シャワー』そして『半ケツ』。
ほぼそれがメインというか売りなので、今回もあるのかゆいに聞くと、それは入れないという条件を出したと言った。売り上げのために裸体を推すのはゆいの意にそぐわない。
「えっ?通ったの?」
「うん。それに卓人さんもやりたくなかったって。でもその延長線で必要ならまた考えることもあるけど」
「そっかぁ。ごめん、ちょっと安心した」
「気になるよね。小百合?先に言っとくけど」
小百合が嫌な思いをしないよう、現場に入る前に伝えた。
いい作品を作るには細かい話し合いもするからどうしてもそばへ寄ったりするし、体に触れることもある。二人だけになることだって。でも誤解しないでほしい。それに大変な撮影になるけど初日に小百合が就いてくれるから、今日はマジで集中できると思ってるからと。
でも一週間のうちに気心が知れて親密になったらどうしたらいいと小百合が言うと、ゆいは笑いながら怒った。
「やめてよぉ~。私どんだけ軽い女なの?たった一週間でそんな気持ちになるわけないでしょ!小百合だったらそうなるの?違うでしょ?たった一週間じゃ心の内なんか分からないよ・・・ん?何?」
ゆいはそう言ったが、ゆいが家に来てからほぼほぼ一週間で小百合の部屋に来ては再婚した圭吾への思いを見抜かれ、そしてファーストキスを奪われた。
その流れが未だに不可解だが、短い時間の中でゆいに小百合の心を見られたことはどう説明してくれるんだろうか。
そんなことは聞けるはずもなく、小百合は分かったと言って車から降りた。
「ななっち!おはよ!昨日ゆいから聞いてさ。LINE送ろうと思ったんだけど寝ちゃって」
寝ちゃっての意味が違うがそれはそれで置いといて、小百合は菜々と一緒に車に積んだ機材と備品の確認をした。その間ゆいは先生のところへ行き、昨日アパートの内見をしたことを話した。審査が通れば今月中にでも引っ越しを済ませたいことも。
「だったら今月末の日曜ってこと?」
「それが希望なんですけど、まだ業者の見積もりもまだなので」
「ふ~ん。だったら私が頼んだところがいいわ。急な依頼も融通が利くから。瞳さんとこも同じ会社よ」
「ありがとうございます。後程連絡先をお願いできますか」
そして事務室にいるあきにも昨日の話をして、大きな段ボールを捨てないでほしいとお願いした。
「了解!でも前に退去の話は聞いてるから、きれいな物だけ取ってあるよ。また空いたら用意しておくから」
「ありがとう!じゃ~そろそろ行ってきます」
車に乗らず待っていた小百合と菜々にお待たせ!と言い、いざ出発。
進行表を二人に渡し、現場に着くまでに説明。緊張している菜々を見た小百合も緊張が移る。
「小百合までビクビクしてどうすんの。しっかりせい!菜々ちゃんも小百合がいるから大丈夫」
菜々はそこだけは納得し、明るく返事をした。