もうお腹が空き過ぎて気持ちが悪い。ここまでくると空腹感も消える。ダイエットを始めるには好都合。今のうちに始めればCM撮影の時にはもう少しスリムになってるかもしれない。そんなバカなことを思いながらスタジオへの帰り道、先生と今日の感想を話し合っていた。
「ゆいさん、ここだけの話。前から思ってたんだけど、あの社長って絶対顔弄ってるよわよね?」
「そうですね、ここだけの話、どう見てもって感じですよね。でも肌はすっごい綺麗でしたね」
ゆいはもっと言いたいことがあるが、先生の話に乗ると後が余計なことを言いそうで、口が悪くなる前に止めた。
スタジオへ戻ったが帰社した時間が予定よりも遅くなり、先に昼の現場の片付けをするか、後回しにして月曜日のロケの準備をするかを悩みながら事務室へ行くと、あきから現場の片付けは菜々にお願いしたと言われる。
慌てて行くと、菜々は最後の掃き掃除をしていた。
「菜々ちゃん!おはよ!掃除ありがとう!」
「ゆいさん、おはよ。そのために来たんだから。月曜日はロケなんでしょ?その準備も入ります」
「ありがと!」
とりあえず今やらなきゃいけないことは我慢していたトイレ。
個室に入り用を済ませると、やっとここで小百合からのLINEを読んだ。一瞬の元気注入。
『私の見間違いじゃなかったら、バス通りの近くにココイチが出来たの。全然知らなかった。ね~今日帰りに食べに行かない?たまにはいいかなって』
『あっ!でも会食あるなら、そっち優先で!』
「ココイチ?どこにあったっけ?このあいだバスに乗った時、通りを見てたけど分からなかったよ」
ゆいは今日たーちゃんにメイクをしてもらった写真と返事を一緒に送り、現場に戻った。
小百合は生ビールを注ぎながら、ゆいからの連絡を待ちわびていた。
やっと洗い場に入り、皿を洗浄機に入れると今のうちにと、スマホを掴んだ。ゆいからの返事に心が躍り、落としそうな勢いでアプリを開けた。そして返事を読む前に、送られてきた写真を見て、思わず口を押える。驚きとその綺麗さに、もうバイトどころじゃない。もしかしてこの姿で迎えに来てくれるのかと、だったら夜のデートがしたい。こんなに綺麗なゆいとドライブじゃなくて歩きたい。
「あっ、ダメだ。私、ヨレヨレのTシャツだった。それに街中歩いたら目立っちゃう。ダメダメ」
ちなみに、ココイチの返事は『昼抜きだったから食べるぅ~』の一言だけ。
「ってことは会食はなかったんだ。良かった・・・ん?」
仕事に戻ろうとした時、またもゆいからLINEが入った。
『今日はお店に直行するから』
「はいっ♪」
既読で分かってくれると思い、あえて返事は送らず持ち場に戻った。
店には直行だと言ったが、それでも帰りたい気持ちで菜々と一緒に機材をワンボックスに積み、積み忘れがないか確認していた。
「菜々ちゃん、月曜日は?」
「ここ入ってる。でもロケのことは。多分あきさんに就いて事務作業かな」
「そっか。行きたい?」
「行きたいけど、事務の仕事をちゃんと覚えたいから。ね~ゆいさん」
ゆいは菜々から就職先のことを相談される。ここで経理の仕事に就きたいが、今はバイトだから働かせてもらえてるわけで、卒業と同時にお疲れ様と言われたらどうしようかと不安になると言われた。芸能事務所の事務よりここがいいと。
卒業までまだ一年半。ゆいは、とにかく仕事を覚えなさいとアドバイス。
「あきちゃんがどんなことでも任せてくれるくらいに。もっともっと必要とされる人になりなさい。でも、先生は菜々ちゃんのこと離さないと思うよ。菜々ちゃんの熱意は伝わってると思うから。でももう考えなきゃいけない時期なんだね」
ゆいは、小百合が先生にここのバイトを懇願した時のことをふと思い出していた。