夜は何を話そうか | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

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ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

授業がない土曜、家から出ない予定の小百合は洗濯物を済ませると韓国語の課題を始めた。部屋で一人、コピーした絵本の翻訳を辞書片手に、どうしても文字に見えないハングルを下書き。

「これ、読めって言われたらヤバいなぁ」

小百合が選んだ絵本は、2匹のカエルの友情の話。子供ながらに覚えていて、いつか友達が出来た時は優しく接してあげようねと、ママが話してくれた記憶がよみがえる。しかし今がそう出来てるのかは自身では分からない。大事な友達がいるということは優しく出来てるのかと絵本をめくって思う。

「いかん!手が止まっちゃった」

ここから昼まで一気にやろうと再びペンを握った頃、ゆいがいる撮影現場では先生のスイッチが入ったのかやたらとテンションが高い。今日のカメラマンは元々は瞳だったが、急遽先生が入ったことで雑誌担当も、そしてモデルのマネージャーも先生同様テンションが高い。モデルに至ってはまさかカメラマンの神が自分を撮ってくれるなんてと緊張で顔がこわばってしまう。

少しの休憩に入ると、先生はゆいに次の指示をした。

「今度はオレンジのバックで。ね?ゆいさん、そのバッグ小百合ちゃんのでしょ。どうよ?使い勝手は」

この場合、プレゼントした先生に対してのバッグのセンスを褒めればいいのか、入ってるものが用意周到で小百合を褒めたらいいのか瞬時考えた。

「小百合がよく動いてくれる理由が分かりました。出し入れがし易いから必要な物もきちんと収めることが出来るし瞬時に出せるので、無駄なく動けるのかと」

「そこまで褒めてくれたらプレゼントした甲斐があったってもんよ。そういえばゆいさんは使わなかったの?佐伯君のとこでは見たことなかったけど」

確かに。雑用はそれなりにあったが、それこそ小百合がやっているような他のカメアシさんのように機材を持って走るとか、そういうことは周りを見て覚えるしかなかった。する必要がないことはない。みんなそこから始めるのだから。

今思えば、彼女という特権で下働きをさせなかったのかもしれない。なんとなく思い当たる節があるから。

そんなこと今更話してもどうしようもないことなので、なかったですね・・・とだけ返事をした。

先生の指示で背景布を替え、急いでトイレに行った。小百合はどうしているだろうと電話でもと思っていたが、先生と話していたことで時間がない。

でも取り急ぎ伝えることもないし、家にいるのは分かってることなので、特別用事がなければ電話しなくてもいいと思い、小百合からのLINEがないと分かると、そのまま現場に戻った。

「ウェストバッグのことは帰ってから話してあげよう♪」

 

小百合も只今一休みで、気分転換にスマホを片手に御用達のサイトを見ていた。このサイトを見つけた時は、恋愛において如何にして長続きさせるか、そして❤のテクなどを目を皿のようにして読んでいた。しかし今は、長続きよりも別れ話に目が行くようになった。納得いくものもあれば理不尽なことも。

自分がそうならないようにという思いだが、男女共通なこともあれば女性同士でしか分かり合えないこともあり、小百合の思いは複雑だ。

ネットの記事はライターさんが書くものもあるので、一概に信じることもないが、今のところは自分たちとは程遠い出来事ばかりだ。

「同棲ならではかぁ」

小百合にとって身につまされる記事を読み、ある日の出来事を思い出す。それは小百合にとって人生最大に恥ずかしい出来事だった。同棲あるあるなことだけど、いつかは直面することなんだけども!もひとつ言うならここをクリアしてこそ!の二人暮らしなんだけども!

あの時は恥ずかしかったけど、ゆいの神対応のおかげで立ち直れた部分もあった。

「ゆい、覚えてるかな」