由美の重たい話にゆいは軽い妬みを感じてしまう。恋愛相談など大体は『もし自分がそうなったら』の体で考えるもの。ゆいもそれなりに考えてみたが少々投げやりな言い方になってしまう。しまった!と反省するがゆいの口調からしてきつく言われたように感じない由美はゆいの意見を素直に聞いていた。
一瞬静かになったところで始発電車の時間までゆいは少し仮眠させてもらった。
朝、由美が目覚ましをセットしてくれたのか、ベルの音が聞こえゆいは目を覚ました。
「何時?」
早く帰りたい。態度に出さないようにそっと起きてはベルを止め顔を洗いに行った。物音で起きた由美も同じように『何時?』と言いながらゆいが洗面所から戻って来るのを待っていた。
「あっ、由美ちゃん。おはよ。遅めの出勤なのに起こしちゃってゴメン。目覚ましのセットありがと」
「ううん。昨日は私の話ばっかりでゴメン」
「こんな時でしか聞けないんだよ。話してくれてありがとう。それに食べたことのない味に出会えたし♪袋は小百合に渡しておくから。ごちそうさまでした♪」
ゆいが帰る支度をしている時、お弁当作りのため小百合はもう起きていた。せっかくゆいが帰って来てもバタバタするのは時間が勿体ないから。横になったまま大きく伸びをしベッドから降りると愛しのゆいから電話が掛かった。行きたかったトイレを我慢し勝手に上がる声で電話に出た。
「おはよ❤」
「小百合、もう起きてたの?おはよ❤今由美ちゃんと別れて駅まで歩いてる途中。多分6時半か遅くても7時には家に着くから」
「うん!気を付けて帰って来てね!」
ゆいが帰って来る!こうしちゃいられないと、ゆいが帰ってきたらご飯が食べられるように今から行動開始。すぐに顔を洗って台所に立った。
最寄りの駅に着いたゆい。由美が書いてくれたメモ書きには横浜方面の電車に乗れるまでの道順が詳しく書いてあった。
地下鉄の〇番ホームの〇車両前で乗り、降りた後目の前の階段を上がったら右手の〇方面の階段を降り・・・とそれはそれは詳しく書いてあった。その理由はゆいが方向音痴だから。おかげで迷うことなく乗り換えることが出来た。
横浜駅に着いたゆいは、いつものバスの時刻表を見て小百合に電話を掛けた。
「今ね、横浜駅に着いた。5分後にバスに乗るから」
「分かった。朝ご飯食べるでしょ?」
「うん!」
その返事で電話を切りバスに乗ると、メモのおかげでスムーズに帰れたことを由美にLINEし、やっと一息。始発の電車は空いていたが、さすがに6時半を過ぎるとバスはそれなりに人が多かった。
『何だか久しぶりの感覚。こんな早い時間いバスで帰るなんていつ振りだろう』
何の帰りだったか忘れたがこの感覚だけは何となく覚えていた。
電話をもらった小百合は、急いで弁当を仕上げ、これから味噌汁を作り始める。今日は久しぶりにジャガイモの味噌汁。こんな時の時計の針はなかなか進んでくれない。何度も見るからか、さっきから数分しか進んでいない。
「あ~もう!じれったい」
意味もなく部屋中をウロウロし、意味もなく玄関のドアを開けてみたり。全く落ち着きがない。お弁当にも入れたが、朝ご飯のためにもう一度玉子焼きを作ろうと部屋に戻り冷蔵庫を開けた。
「ただいまぁ!」
大好きな声が聞こえた小百合は持ってた箸をそのままでゆいを出迎えた。
今すぐにでも抱きつきたいが、エプロンは油まみれ。そしてゆいはよそ行きのスーツ。おかえりのハグすら出来ない。
「お帰り♪ご飯出来てるよ。先にシャワーしてきなよ」
「うん。その前にさぁ」
ゆいは服を脱ぎ、下着姿になると後ろから小百合をそっと抱きしめた。
「一人にさせちゃってゴメンね。しばらく夜はゆっくり出来ないのに」
小百合はゆいの手を掴み、大きく首を振った。