情緒不安定でごめんなさい | トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

トランジットガールズ Another Story ♬novel♬

ドラマ トランジットガールズの未来の物語。

変わらないよ・・・。
私はずっと変わらない。

ゆいのこと一番に理解したいのに、どうでもいい勝手な妄想で嫉妬し、ゆいの仕事のことを未だに応援しようとしなかった自分が情けなく、シャワーまで我慢すればよかったのに一人トイレに入っては涙をこぼした。

明日のお弁当のため少しの仕度をしていたゆいは小百合の声を聞き、思わずトイレのドアを叩いた。

「小百合?どしたの?お腹痛い?生理酷いの?・・・どしたの?」

しばらく無言の後、流す音が聞こえ小百合が出てきた。ゆいは何も言わず小百合を抱き寄せ背中や腰をさすった。

「ゆい、ごめんなさい。ゆいの仕事のこと、余計なことばっかり考えちゃって、理解してるはずなのにそんな経験要らないって言っちゃったから」

ゆいの胸に顔を押し当て、小さな声で謝る小百合に、ゆいは何度も頭を撫で「なんともなくてよかった」と軽く叩いた。

 

「具合が悪くなったのかと思って。今から救急で見てもらおうかって車を出すつもりだったから。ね?余計なことって??」

「何でもない。何でもないの!」

「なんでキレんの?何となく想像はつくけどね。でも大丈夫で良かった。シャワー行っといで」

ゆいに頬チューされ、情けない顔の小百合はやっとシャワーを浴びに行った。

 

芸能人を専門として撮るカメラマンとして、写真集に携わることは名誉なこと。そういう意味でゆいは胸が高鳴る気持ちだが、若い俳優だからという思いは微塵もない。そろそろ分かってほしいが小百合が謝ってくれたということは理解してくれたんだと、ゆいなりに解釈し、お弁当の仕度を続けた。

小百合は背中にシャワーを当てながらお湯の温かさで痛みを取っていた。

「この痛みも明日になれば引く。早く課題もノートのまとめもやって土日に備えなきゃ」

もうウジウジと泣いてなんかいられない。サッパリして出てくるともうベッドの横に布団が敷いてあった。

「出た?今日は小百合がベッドで寝なさい。ほぼ命令です」

「ありがと。今日はそうさせてもらうね。でもまだ寝ない。今日中に課題だけは終わらせたいから。この時間だったら片付きそうだし」

「そう?あんまし無理しないようにね。じゃ、私もシャワーしてくるから」

 

風呂場の音が聞こえた後、小百合は冷蔵庫を開け、お弁当の下ごしらえを見つけた。これで何となく盛り付けの想像がつき、食べる楽しみが増えた。

明日は課題を提出し、すがすがしい気持ちでお弁当が食べたい。そうと決まればと、肌のお手入れもそこそこにテーブルに広げた。

一人のんびりとシャワーしているゆいの頭の中は小百合のことではない。少しはあるが、今のゆいはオーディションのこと。自分が満足できるものが撮れるのか。融通が利く日は2日間。それもチャンスは太陽が出ている限られた時間だけ。タイミングを逃すと後がない。

「無理があるかな。自分でテーマを決められたらよかったのに。でも小百合はすごく乗り気で協力してくれるし。やるだけやってみるか」

 

ゆいもさっぱりして出てくると、仕切りのカーテンが目に入る。小百合のやる気スイッチを感じたゆいは洗面所で顔のお手入れを始めた。

いくら美人のゆいでも、そこは人間。ちゃんとひげも伸びるし気付かない間に鼻毛もこんにちわ♪する。

顔ぞりは小百合がそばにいても平気だが、さすがに鼻毛の処理は見せられない。やるなら今!ということで、一人手鏡を見ながらコソコソやっていた。

以前、由美から聞いたブラジリアンワックス。棒にワックスを塗って鼻に入れ、固まったら一気に抜く。めちゃくちゃ痛いと言っていた。

「でも抜けば安心・・・だよね。やっぱ無理」

痛みに打たれ弱いゆいは「切ればいい」とあっさりと諦めた。

「さてと。私もゆっくりしよう」

後は寝るだけ。タブレットにヘッドホンを差して動画を見ながら小百合が終わるのを待つことにした。