マクスウェルの悪魔 | toshiのブログ

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日頃、科学技術について調査していることや趣味でやっていることなどを紹介していきます。

「マクスウェルの悪魔」は、熱力学の第2法則を破る方法として、マクスウェルが考案した仮説である。
もし、これが実現すれば、エネルギー問題は原理的に解決してしまうことになる。
これまでの通説ではマクスウェルの悪魔は「実現不可能」と考えられてきた。
だが、どんな法則であれ、それが成立するために必要な暗黙の条件というものがある。
近年、分子単位で粒子の運動をコントロールする技術が発達してきたおかげで、マクスウェルの悪魔を実現できたという報告が増えてきた。


title: 「自然科学と信仰」
author: 木越 邦彦
publication: 放射線科学 Vol. 39, No.11, pp.429-433, 1996

大気は、高さ方向に温度の分布が生じているが、従来は対流による断熱変化でこのような温度差が発生すると説明されてきた。
ところが、木越の実験では、対流の無い状態でも気圧が低ければ自然に温度差が発生したという。
メカニズムは以下のようなものだ。
大気圧が低くければ、分子の平均自由行程が長くなり、分子同士の衝突直後と次の衝突までの高低差が大きくなる。
分子は、重力の影響を受けるため、上方へ飛行しているときは減速し、下方へ飛ぶときは加速する。
このため、高所に分布する分子は、速度が遅く、低所に分布する分子は、速度が速くなる。
分子の速度は、温度に対応しているため、高所では気温が低く、低所では高くなるという。

もう20年くらい前だが、本人に会う機会があって、実験装置を見せてもらった。
恒温層の中に金メッキを施した直径30cm程度のガラス球が入っており、球内の希薄ガスの温度を上部と底部で1/10000℃の精度で計測できるようにしてあった。ガラス球は定期的に上下が反転する機構になっており、温度センサーの特性ばらつきによる誤差をキャンセルできるようになっていた。得られた結果は、計算値とよく合っていた。

木越氏によると、ディラックは「場の中では熱平衡は成立しない」と主張していたそうで、気体温度分布発生の実験は、その検証でもあるという。



title: Experimental demonstration of information-to-energy conversion and validation of the generalized Jarzynski equality
author: Shoichi Toyabe et al
publication: Nature Physics Vol.6, p.988?992, 2010
論文掲載サイト: http://cat.phys.s.u-tokyo.ac.jp/~ueda/ToyobeNPHYS.pdf
解説記事:http://www.chuo-u.ac.jp/chuo-u/pressrelease_files/kouho_926d762ef5d729c7544d1276739468c5_1289788403.pdf

微粒子が1つ乗る程度の微小な階段をつくり、そこへ樹脂粒子を乗せると、ランダムな運動によりでたらめに上り下りする現象が起こる。この論文では、微粒子の運動方向を制御することができたことでマクスウェルの悪魔が実現し、分子が階段を上り続けるようになったという。

実験システムは、やや複雑でわかりにくいが、Nature誌に掲載されたという点が高く評価できる。



title: Realization of Maxwell's Hypothesis - A heat-electric conversion in contradiction to Kelvin's statement
author: Xinyong Fu et al
publication: Shanghai Jiao Tong University(2010)
論文掲載サイト: http://arxiv.org/abs/physics/0311104v2

電子親和力の小さい材料は、室温でも熱電子放出が起こることが知られている。
同種の材料A,Bを接近させた場合、両者の間を熱電子がランダムに飛び交う状況になる。
ここに外部から静磁場を印加すると、電子の運動にトレンドが生じ、分布が偏る結果となる。

A,Bの表面に存在する電子数に差が生じたことにより、電位差となって現れ、起電力が発生したという。

偏る力は磁場中のローレンツ力で裏付けられるので、説明もわかりやすい。
ここで発生した電気エネルギーは、熱電子の運動エネルギーから分配されたものであるから、エネルギーを取り出す事でシステムが冷却することになると思われる。


日本国内では、上に紹介した成果をしのぐ斬新な発見が次々に報告されており、今後の進展に期待したい。