読了。
主人公は、日本茶の出張カフェを営む「如月たんぽぽ」という若い女性。
占い日本茶カフェ迷い猫 (著)標野凪
主人公は、トランクの中に道具を入れて、依頼があった先や自分から出向いた場所でお茶を入れ、タロット占いをする。(太字部分は本書からの引用である)
その時のお供は「つづみ」という名の猫。キャリーバッグに入れて旅立つ。
主人公が「お道具箱」と呼んでいる「フタ付きの杉の箱」が気になった。
この箱に、アルミ製の茶缶(茶葉は現地調達)、木製の茶さじ、湯冷まし用の片口などを入れ、トランクに収めて目的地に向かうのである。
この箱は、「フタを裏返すと立ち上がりのあるトレーになり、ちょっとした作業スペースに早変わりする。厚みのある木の肌は、食器への当たりもやさしい。多少、道具に水分が残っていても、湿気を吸ってくれるので片付けにバタついているときも助かる。その上、杉のほのかな香りが移って、なんともいい匂いにしてくれるという嬉しいオマケが付く」というものらしい。
「茶箱・茶籠」ファンとして気になる。
物語に「聞き茶」をするシーンがあり、この部分を読んで、主人公のお茶に対するスキルの高さに驚いた。
「これは丸い、というよりはすっきりしている。おそらく埼玉か。もしかしたら東北かもしれない」
「煎茶というよりは甘茶のような草木の香りが強い。素朴な味わいは島根か富山か」
「これは福岡。旨みをぎゅっと凝縮した味は九州の風土でしか出せない」
主人公は、静岡のお茶か、京都のお茶かで迷う。
「静岡でここまでまろやかに出すとなると、里の深蒸し茶、しかも新茶を秋まで熟成させてから仕上げた蔵出し茶だ。京都のお茶は浅蒸しに仕上げる。深蒸しなら湯のみの底に微細な茶葉が沈むはず」
「京都のお茶は隅々まではんなりと上品だが、静岡なら、尖った苦みの要素がどこかにあるはず」
うーむ。さすがプロと言えよう。
この部分を読んで、各地のお茶が飲みたくなった。
主人公は行く先々で「現代の売茶翁」と称賛される。
その売茶翁が茶のもてなしの手本としていた盧仝の『茶歌』に次のようなことが書かれているらしい。
「一碗で喉を潤し、二碗で孤独さがなくなる。三碗飲んだら勉学に勤しみたくなり、四碗でストレスが消える。五碗めを飲む頃には、全身が清らかになる」
うーむ。良いねえー。
美味しいお茶を素敵な湯のみで飲みたいものだ。
そして、やっぱり気持ちのいい場所で飲みたいよねえ。
私は、先日仙台を訪れた際に「御菓子司 賣茶翁」を訪れ、その美味しいお菓子に感動している。
本書の「第2話」では、主人公も「賣茶翁」を訪れているのである!
「バス停からナビを確認ながら歩いていくと、端正な造りの店舗に辿り着いた。そこだけ空気の濃度が違うような感じを覚える」
これは確かにそうだった。
「年月を重ねた木の看板に書かれた店名『売茶翁』の文字を眺めながら石畳を進み、暖簾をくぐる。木製のショーケースに和菓子が並び、奥の小上がりにはイートインもあるようだ」
現在、このイートインはお休み中のようであるが、かつてはここでお茶とお菓子が楽しめたと思われるスペースが売り場から見えた。復活を願う。
「御菓子司 賣茶翁」で求めたこちら…日持ちがするので大切に味わっている。
手漉き和紙の包み紙、きれいに取ってあります。
「みち乃くせんべい」「塩阿弥」「くめせん」の詰め合わせ
真ん中の「みち乃くせんべい」が有名。